今月11日(木・祝)から開催される第8回恵比寿映像祭の短編アニメーション特集プログラム荒れ地の先へ─短編アニメーションで、小野ハナさんの新作『あいたたぼっち』がワールドプレミア上映されます。昨年、第69回毎日映画コンクールで大藤信郎賞を受賞した、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻修了作品『澱みの騒ぎ(Crazy Little Thing)からのアフターグラデュエイション作品としては初めてのナラティブ作品でデビューフィルムともいえる今作、どのような内容なのかとっても気になりますよね!

そこで、今回は『あいたたぼっち』について、現在はフリーランスのアニメーション作家として活躍する監督の小野ハナさんにお話を伺いました
まずは、『あいたたぼっち』のトレイラーをご覧ください!

『あいたたぼっち(Ouch, Chou Chou)(2016)11'37"
監督:小野ハナ
音響監督:髙橋紗知
音楽:芳澤奏
サウンドデザイン:髙橋紗知

―― 『あいたたぼっち』完成、おめでとうございます。前作『such a good place to die』から間もない発表となりましたが、最近はどうしていますか。

小野: ようやく編集などの実作業が手から離れて、今は少し落ち着いて色々と観たり出掛けたり、次の計画を立てはじめたりしています。

―― 『あいたたぼっち』について教えてください。これは小野さんにとってどのような作品ですか?

小野: この作品は、自分にとって3作目のナラティブアニメーションになるんですが、物語をアニメーションにするという事は何なのか、一歩引いて考えられるようになってきた段階のものだと思います。
今までは、アニメーションで物語を作る時には好奇心が先行していて、混沌とした精神世界の中からまだ見えない何かを探し当ててやろうみたいな、それが見つかってどんなのが出来上がっても知るもんかと、とにかくがむしゃらに突入していく感じがあったのですが、それで何に辿り着くのか、良くも悪くも全く見えていませんでした。『澱みの騒ぎ』という作品を2014年に完成させて発表しているうちにようやく、その闇雲に突入したことでうまれた物語が、何に到達していたのか、何が生まれたのかというような結果が見えてくるようになって。それまで抱いてたアニメーションの力への好奇心や予測が、その辺で確信に変わった感じがありました。今回は、そのアニメーションの力の存在を頭の隅に置いた状態で取り組めた最初の作品だと思っています。


画像:作画の様子

―― 本作制作のきっかけは?

小野: 音響監督とサウンドデザイナーと録音技師を兼任している、東京藝大音楽学部音楽環境創造科の髙橋紗知さんの卒業制作として取り組みました。私の過去作の『澱みの騒ぎ』『such a good place to die』の2本でもお世話になっている方です。


写真:録音スタジオの髙橋さん

―― 難解な部分が多いので、ストーリについて少し詳しく教えてください。

小野: 今回の話は、キャベツとエンドウマメの2人のキャラクターが中心です。どちらも17歳の女の子の設定です。10年前には仲のいい友達だったけれど、引っ越してから疎遠になっていて、ある出来事があって10年ぶりにいきなり再会を果たすけれども、お互いに以前とはある意味変わってしまっていて、というのが話の始まりです。


画像:『あいたたぼっち』の1シーン

―― なぜキャベツとエンドウ豆?

小野: 音響監督の髙橋さんとの最初の打ち合わせの時に「野菜のキャラクターにしましょう」と決めました。最初はキャベツじゃなくて白菜の予定だったんです。効果音の作成時によくお世話になっている野菜だとのことで(笑)。
白菜は結球野菜なので、葉を剥がしていくといずれ無くなりますよね、その形状を揶揄的に用いようと思いました。でも白菜は結局、東アジアにしか馴染みがない野菜だとわかったので、キャベツに変更しました。エンドウ豆についても、莢(さや)の中のいくつかの豆というこの形状を揶揄的に活かせる経験を想像して、キャラクターの肉付けをしました。自分の頭がエンドウ豆だったら、体感はどうなのか、豆が取れてしまったらどうなるのか、とか。


画像:プロット制作中風景。付箋で話の展開を整理する

小野: 野菜の形をしたキャラクターにしたからと言って、野菜人間の生き方を描くつもりは全く無くて、あくまでもこれは人間の話です。剥がせるものは剥がしてしまうキャベツの行動は、一見意味が分からないからこそ良くて。例えば日頃見かけるたくさんの赤の他人の行動も、自分が知らないだけでそれぞれ流れが必ずありますよね。何なら生まれる前からずっと脈々と続いている。でもそれを全て知ることって不可能で、だからと言ってその一見意味が分からない姿の尊厳が欠ける訳じゃないじゃないですか。だから人間を描く時も、ある程度伝わらないことも大事にしたいと思っていて。知り得ないその距離感そのままを描くことを意識しました。だからといって私の中にモデルが全くいない訳じゃなく、頭の中ではそのキャラの行動の筋は一応通っています。
あとあるいは、最初からキャベツの行動に強く共感する人にとっても、とやかく理由付けして見る側に納得してもらおうとする演出を取り払った方がスッと入ってくると思いますし。当事者にしたら、「簡単にわかってくれるな」みたいな感情もあるだろうと思って。人の顔の形じゃなく野菜の頭にする事で、何を感じているキャラクターなのかが象徴的に表せてよかったと思います。


画像:『あいたたぼっち』の1シーン

―― 今作もテーマの中に「生死」があるんですね?小説を読んでいる錯覚をおこすような物語性の強さが特徴の「小野ハナ作品」、あえて表現方法にアニメーションを選択している理由を教えてください。

小野: 生死について描きたがるのは、私の人生が暗かったからかも知れないんですけど、それを言ってしまうと心が病んでるのかと心配されるので、言わないようにしてます(笑)。 自分にとってアニメーションは、人の深層心理を炙り出す手法だと思っていて、根源的な所に行き着くと結局生死とは無縁にはなれないので、それを素直に描いているつもりです。得体の知れないものや摩擦などを明るく湾曲させたり簡単に収束させたり、あるいは見ないふりをするとかいう黒さを避けている面はあります。


画像:絵コンテ

―― 『あいたたぼっち』制作期間と主な役割分担、制作手法、使用したツールやソフトウェアを教えてください。

小野: 今回は作画や編集をしていたのは実質3ヶ月くらいです。昨年は水江未来さんとTwothさんとのコラボ作品にも取りかかっていたので、同時並行的に進めて半年くらい捏ねていました。髙橋さんと音の演出について少し打ち合わせした後、私は自由に物語を描かせてもらって、全体の尺が見えて来た所で音楽担当の芳澤奏(よしざわかな)さんと合流して、録音して、という感じです。声優には、『澱みの騒ぎでもお世話になった尾中彩美さんを中心に、多摩美術大学の演劇部の皆さんに参加して頂いています。作画は用紙に鉛筆で、着彩はPhotoshop、編集はAfter Effectsです。


写真:音楽録音風景。録音技師も兼任する髙橋紗知さん(左)と、Vnの西村萌玖夢さん(右)。


写真:ワイングラスの音を録る作曲者の芳澤奏さん

―― 今後の作品展開予定を教えてください。

小野: 今春4月29日から5月31日までの約1ヶ月間、私の地元である岩手のCyg art galleryというギャラリーさんで個展をやらせて頂くことになりました。そこではちょっと大きな展示もしてみたいと思っています。
Cyg art gallery:
http://www.cyg-morioka.com/

―― 恵比寿映像祭で『あいたたぼっち』をご覧になる方にメッセージをお願いします。

小野: 恵比寿映像祭という大きな場所に参加させて頂けて本当に光栄です。多様な視点で作られた映像をたくさん観るという機会に、ぜひアニメーションも挟んでみて頂けたらと思います。私も当日色々なプログラムを観るのを楽しみにしています。


画像:『あいたたぼっち』の1シーン

小野ハナさん、どうもありがとうございました。
昨年はsuch a good place to dieという抽象作品でさえ、強力な「物語を語る力」を見せつけた小野ハナさんによる、再びのナラティブ作品発表。言葉少なに描かれる2人のキャラクターの精神世界の交錯は、不思議で理解できない部分も多く、しかしそれが他人と対峙するということなのだと気付かされます。

小野ハナ監督最新作『あいたたぼっち』が上映される第8回恵比寿映像祭で、世界で初めての目撃者になりましょう!


小野ハナ 公式サイト「銀杏に雨」
http://ginkgo.raindrop.jp/


第8回恵比寿映像祭 動いている庭
Yebisu International Festival for Art & Alternative Visions 2016
Garden in Movement
http://www.yebizo.com/

会期: 平成28年2月11日(木・祝)~2月20日(土)
      [10日間・会期中無休]
開催時間: 10:00~20:00
※ただし最終日平成28(2016)年2月20日(土)のみ18:00まで

「荒れ地の先へ─短編アニメーション」
会場: 恵比寿ガーデンシネマ
日時: 2月13日(土)18:30、2月17日(水)15:00