全3回でお届けしてきた『堀さんと宮村くん OVA』のインタビューも、これで最終回となる。今回は遂に! ファン待望の嬉しいお知らせに加え、山田太ろうさんのさらに踏み込んだ新たな挑戦、そして送り手へのメッセージで締めくくられる。記事の終わりには、原作者であるHEROさんからのスペシャルイラストも掲載している。


――では、第3巻のお話をさせて頂ければと思うのですが……。
山田太ろう(以下、山):ここ、太字にしておいて下さいね(笑) 第3巻は現在制作中です! 第3巻からは、本当の意味での“自主制作”に切り替えました。新たにスタジオを立ち上げまして、「marone(マロネ)」という名前をつけました。“まろね”は古語で、現代語で言う「ゴロ寝」を意味しています。具体的には、会社の中にスペースを作りまして、そこに監督、作監などに入って頂いています。隣のフロアでは撮影・編集が出来ますし、隣の部屋では音楽を作っているし……という感じです(アニメーターの多くは在宅ワーク)。


「marone」の同フロアにある音響スタジオと作画スタジオ。編集スタジオも含め、居間を挟むような形でほぼ数歩で行き来することが出来る。

――3巻からは、アニメーターの労働環境の改善にも取り組んでおられると伺いました。
山:今のアニメ業界ですと、1カットで4500円位ですが、この設定が曲者で……。止め絵でも動いていても、同じ値段になってしまうんですよね。枚数ばかりが増えてしまい、これではアニメーターは食べてゆけない。「絵を描いているのが好き」だから続けられる仕事だろうとはよく言われますが、やはり普通の生活はしたいじゃないですか。僕たちのような小さなスタジオが、このことを声高々に訴えても業界自体は変わりませんが、せめて自分たちの作品ではそういうことがないようにしたいんです。『堀宮OVA』3巻での原画・動画の価格は劇場映画並みに設定していますし……それ以上かな? 監督へのギャランティも違いますし、印税も入るようにしています。社内ですべてを自主制作することによって、一般的なアニメ1話分の制作費よりも管理費や営業経費などが無い分、安く作れている。その分をすべてクリエイターに還元しているんです。また福利厚生の点ですが、「marone」ではスタッフの食事も全て会社が用意しています。交通費はもちろん、スタジオ内には寝床もありますし、洗濯も本人たちがしなくて済むようにしています。彼らも多くがフリーランスなのですが、社員希望であれば社保もあるのに、社員にならないんですよね……(笑)。出来る限り気持ちよく仕事をしてもらいたいんです。

――第3巻のリリース予定は?
山:発売は今年の冬を目標にしています。非常に楽しいものになると思いますよ。新しい監督の元に作られているので、また違った色合いになっていますね。今回からキャラ設定もちゃんと作り直しているので、意外とレミの髪が長いな、とか(笑) 全てそういったものも修正しています。

――非常に楽しみにしております!
山:本当は4巻以降の制作もスピードアップ出来たらなと思ってはいるのですが、何しろ前の巻の売り上げから次の巻の制作費を捻出していますので……。お陰様で枚数は出ているのですが、このようなスタイルですので、4巻以降の構成も大まかには決まっているのですが、こればかりは何とも言えないですね……。


主人公である「堀さん」の美術設定。「marone」の作画スタジオにて。

――しかしウズと10GAUGEという、デザイン会社、玩具メーカー、楽曲、音響制作と、さらにはアニメーションの受注も可能なふたつの会社にたまたま原作があり、やろうと思ったときにすべての環境が整っていたというのは非常に面白い巡り合わせですよね。
山:そうですね。社内でここまで出来てしまうのは、他にはあまりないと思いますね……。

――逆に言えば、この環境が整ってさえいれば、やろうと思えば“作れちゃうよ”ということでもありますよね。
山:作れますよ! 売れるかどうかは話が変わってきますけれど。実は大手さんにもいくつかそういう所はありますよね。子会社化しているだけで、全部一つとして考えれば、それぞれの環境はある。けれどそれをしていないのは、大手ならではの委員会より面倒な事があるんですよね、絶対。リスクの分散だったり……。そうするとやはり、(作品も)ビジネス・ライクなものにしかならない。そこから各社のPが集まり、円卓会議が開かれ、売れなければアニメ制作会社のせいにされてしまう……俺こんなにディスっていいのかな(笑) 『堀宮OVA』の制作環境が整っていたのは本当にたまたまですけれど、“メジャー感”ではないものを目指そうという方向性は最初から考えていて、今も変わりません。それに関してはHEROも理解してくれているので、楽しんで描いてくれます。こちらとしても有り難いですよね。

――最後に、『堀宮OVA』のようにインディーズで何かを制作してみよう、という方に向けて何かメッセージを頂けますか?
山:何でしょう、やっぱり好きじゃないと出来ないことなので……。皆、その人の“いい所”しか見ずに、「自分にも出来るぞ」と思ってしまうんですよね。「あの人いい車乗ってるなー」と同じで。妬みや嫉妬、自尊心もそうですけれど。「この人はどれだけ苦労してここまでやっているのか」という過去を知らずに、“今”のパーソナルな部分しか見ていない。同じことをやるのはいいけれど、それを成功させるかどうかは自分自身の問題です。だから、仮に失敗したとしても、それを楽しんだかどうかが……よく「過程はともかく、結果が良ければいい」と言うじゃないですか、僕は逆で。「結果はどうでもよくて、とりあえず始めろよ」と。まずはその過程を楽しんで、むしろ結果が出なかったほうがいいとすら思えるんです。成功しちゃうと、何で成功したのかが分からないままなので、次に繋がらないんですよ。僕はさんざん失敗してきていますから……。それを重ねることで、ようやく“知恵”になってゆく。学校で学べるのは知識だけですから、社会人になると知恵が必要になってくる。知恵は失敗からしか学べないので。(それも全部含めて)自分が「するぞ!」という強い思いがあれば良いと思います。もっと色んな作家や作品が、出てくればいいと思いますけどね。……ぜひ!(笑)


この記事をもって、『堀さんと宮村くんOVA 第3巻』の制作が発表となった。この機会を与えて下さった株式会社ウズの皆様に深く御礼申し上げます。

取材を通して山田太ろうさんは、しきりに「(この企画も)本業があるからこそ出来ることだ」と付け加えていた。氏の「思いついたら即動く」という行動力や、失敗を恐れずに状況を突き動かす意思の強さに感銘を受けた一方で、受注仕事と平行しながら「採算を考えずに」制作しているこの企画を潰さないための、ある種のバランス感覚の巧みさ……も同時に感じ取ることが出来た。夢を夢物語とせず、したたかに現実問題として着地させるその“知恵”や、だからこそアーティスト的に立ち回らなければいけない場面での決断力は見事なものだろう。

そして何よりも作品や、携わるクリエイターたち、そしてファンを信じる力の強さ――それが非常に印象的なことだった。

確かに『堀宮』は、制作する状況が揃っていたのかもしれないが、一方でこの挑戦は、この会社にしか出来ないことではないと思う。『堀さんと宮村くん OVA』の挑戦を通じて、この国で次を待っている新たな意思への、何かヒントや勇気になれば、これ以上の喜びはない。そしてもし興味があれば、ぜひ『堀宮』に、そして『堀宮OVA』に触れて下さったならば幸いだ。


最後に、『堀さんと宮村くん』の原作者であるHEROさんからスペシャル・メッセージを頂きました!

山田太ろうさん、HEROさん、本当にありがとうございました!


『堀さんと宮村くん』OVA特別版 1巻・2巻ラバーストラップコンプリートBOXをセットで2名様にプレゼント!
※プレゼント応募は締め切りました。

応募締切: 2014年7月28日(月)午前0時

※当選された方にはメールでご連絡いたしますので、ドメイン指定受信をされている方は必ずinfo@tampen.jpを許可してください。
※いただいた個人情報は本件のみで使用します。


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