前記事に引き続き、『堀さんと宮村くん OVA』を手がけた株式会社ウズの山田太ろうさんにお話を伺っている。今回は作品の完成から、独自の通販サイトである『ウズラヤ』での、非常にユニークな試みについても深く聞いている。氏の“モノ”と“ヒト”に対するこだわりが垣間見れる、非常に興味深い内容となった。
――物語を組み立てるにあたって、気をつけられたことはありますか?
山田太ろう(以下、山):基本的に僕は口を出していないですね。先ほどの話に戻るのですが、ふつう製作委員会方式となると、色々な会社のプロデューサーから内容や画作りに介入があったりするんです。理由は簡単で、“儲けなければいけない”から。そういう事を今まで嫌というほど体験し、見てきたんです。なので、堀宮に関しては物語や、完成していく演出には口を出したくなくて。「好きなように作ってくれ!」と。ただ共通してお願いしているのは、「原作の堀宮感が欲しい」だけです。それを受けた監督が「堀宮をどう表現するか」が逆に楽しいです。でないとインディーズでやる意味はないし、“初”で模索する感じも出てこなくなってしまう。だから本当の意味での「プロデュース業」は、僕はしていないですね。だから1巻が出るときはすごく心配でした。監督には、「漫画がそのまま動いているような画作りを」というオーダーを最初に出しはしたのですが、いざ完成してゆくものを見ていると、背景会社さんから頂いたテクスチャまで監督が消していたりして、直接口は出さなかったけれど制作の田代くんと「ここまで削ぎ落として大丈夫かな」って話していました(笑)
――しかし完成した絵は、原作漫画のフラットな画風を見事に再現した魅力的なものになっていて、私個人としては感動的なものがありました。
『堀宮OVA』のキャラクター対比表。第1巻、第2巻では原画家が少数だった(1巻は2人、2巻は4人)こともあり、美術設定はほとんど存在せず、これはその後新規に描き起こされた。
――制作が始まってから、思いがけずここで苦戦した! などの悩みはありましたか?
山:これはアニメの「あるある」だと思うのですが、(制作会社の)作画がスケジュール通りに上がらないという(笑) これは仕方が無いことでもあるのですが、企画がOVAなので、どうしても制作会社内で後回しになってしまうんですよね。しかも自主制作な上に、少人数なので。お願いした会社ではテレビシリーズも回しているので、どうしてもそちら優先になってしまう。もともとこれほど間隔をあけてリリースする予定ではなかったのですが、こればかりは苦戦しました。
――音響に関しては?
山:音楽については、劇判も含めて依田(伸隆、10GAUGE)が全て制作出来るので問題はありませんでした。ただ、アフレコは社内ではできないので、音響監督の下にスタジオで収録してます。主題歌に関しては社内でレコーディングもできるのですが、取材が入るため(『ホリミヤ』を連載する『月刊Gファンタジー』誌上で、『堀さんと宮村くん OVA』のアフレコレポートが掲載されていた)、見栄えがいいように別にスタジオを押さえてレコーディングしました(笑)。
――声優さんのキャスティングに関しては?
山:これは松岡(超)さんと相談して、純粋にキャラクターに合った声で選びたいなと。「この人を起用してください」っていうのがよくあるんですよね。それはしたくなかった、というかインディーズなのでそういう事を言う人がいなかった(笑)……声優さんで作品を売るつもりもありませんでしたので。いくつかヴォイスサンプルを送っていただき、そこから完全に“キャラクターのイメージの声”だけで選び出しました。監督と脚本、HEROと僕とで候補を出し合ったのですが、1位がだいたい一緒になったんですよね。そこから自然と順番に決まってゆきました。……あっ、2巻は仙石(翔)が居たんだった。仙石のキャスティングだけはね、僕のわがままなんです。
――というと?
山:仙石のキャスティングは非常に難航しまして。設定上は、電話口でお母さんと声を間違えられちゃうくらいの女声の持ち主、という男の子。いっそ女性を起用するという選択肢もあったのですが……。
――仙石……、可愛そうに(笑)
山:で、ある時、僕が休みの日に家でゴロゴロしていたら、ふいにテレビから声が聞こえて来て……。何の番組だったか、MCとして喋っていらしたのかな。その声を聞いた途端に、……あ、仙石だ! と思って。それが島﨑信長くんだったんです。次の瞬間には全員にメールして、次の会議で「仙石は信長だ!」と猛プッシュしましたね。
――しかしそのように、しがらみなく「キャラクター重視」でキャスティングを進めた結果、非常にリッチな声優陣となったことも興味深いです。
山:すごく良く言われるんですよねぇ。「この一言だけのためにこの声優さんを使うのは贅沢だ」と。僕自身は全然声優さんに詳しくないので、あ、そんなに豪華だったんだという感じなのですが。(河野)桜役の野村(唯)さんは声優が本業という事ではないみたいなので、今後のキャスティングもどういう方にお願いするかは解らないですね。スケジュールの点でも、皆さんお忙しいので恐らくテレビアニメでこのキャスティングは不可能だと思います。『堀宮OVA』の場合、収録は一話分をすべて1回で録ってしまいます。松岡さんにお願いして、全員のスケジュールが合う日を押さえてもらって。そこで毎回、出オチの人(一度しか出番が無い)がいるんですけれど。えーと、安田先生とか、安田先生とか、……安田先生とか。
――(笑)2巻の冒頭で一言だけ登場しますよね。「(この箇所がテストに)出るからな、出るからな!」とだけ呟きながら名残惜しそうに消えていって……。
山:あれは演じる杉田智和さんのアドリブなんですよ。他にも面白いのが一杯あったのですが、尺の都合であれ位しか使えなくて。杉田さんはいい人でねぇ、最初に収録が終わってしまったのに、最後まで残ってガヤまで一緒にやって下さったりしました。終わってるんだから帰ってもいいのに(笑)。僕は安田先生、大好きなんですよ。
ウズ独自のショッピングサイト『ウズラヤ』。第1巻発売と同時に立ち上げられた。現在はOVAのほか、書籍や、HERO関連グッズも販売する。ちなみに画像中央の赤い髪の男の子が、仙石くん。
――今回のOVA発売にあたり、ウズ独自の通販サイト「ウズラヤ」を立ち上げられましたが、その辺りのお話をお聞かせください。
山:10GAUGEはウェブの仕事も(10GAUGEは『一週間フレンズ。』を始め、現在放送中のテレビアニメーションの公式サイトやPVを多く手がけている)しているのでホームページは作れるんですが、ショッピングサイトの経験はなかったんです。まず撮影監督の松木(大祐)が独学で基本ベースを作りました(笑)。1巻発売時はサーバーの負担も含めて、本当に未知数のまま動いて……。ところが、発売開始5分で(サーバーが)落ちてしまい、そのサーバー会社が管理している他社のウェブサイトも一緒に落ちちゃったらしくて(笑)。それからも数度サーバーに関しては増強をしているのですが、2巻発売時にも一瞬ダウンしてしまって……。これ以上大きくするとオンラインゲーム並みになってしまうと言われました(笑)。一年間で何度もピークが来ないのに、さすがにそこまでのコストはかけられない。苦しいのですが、今が限界値ですね。ついでになのですが、HEROの個人サイトである『読解アヘン』のサーバーも、今はウチで借りています。ここも現状はいま(の転送量)で限界なので、どうぞ皆さん、ご協力をお願い致します(笑)
――ウズラヤで商品を購入すると、ポイントが溜まり、そこからトレーディング・カードと交換出来る仕組みがあったことは、非常にユニークな試みでした。
山:それもMD(マーチャンダイジング)的な発想から生まれたものです。きっかけは僕の個人的な体験がベースにもなっているのですが……。『堀宮』は中学生くらいの子もターゲットになっていますから、そうするとDVDって、やっぱり(感覚的には)高いじゃないですか。もしかしたら友達の中に、特別版を買えた子、通常版しか買えなかった子がいるかもしれない。差がどうしても出ちゃうじゃないですか。僕は裕福な家庭では育っていないので、買えない子の気持ちが解るんです。だからトレーディング・カードは全部のバージョンに入れています。どの種類を買っても、アニメの内容以外で共通のコミュニケーションが取れるようにしたかったんです。
『堀宮OVA』通常版~限定生産版すべてに収められているトレーディング・カード。全12種類で、レアカード2種類を含む。トレーディングカード単体でも、「ウズラヤ」のポイントと交換することで入手できる。
――実はその辺りも伺いたかったことなのですが! 『堀宮OVA』の、特に第一巻は、OVAとしては非常に破格の値段設定がされていましたよね(※『堀さんと宮村くん -新学期- OVA』の通常版は2,980円(税込)。特別版が3,980円(税込)、フィギュアが1セット同梱される限定生産版も4,980円(税込))。これも衝撃的でした。
山:制作費は普通に数千万円はかかっているんですけれど、ウズラヤのみで販売する予定だったので、その価格設定で行けるだろうと。ただ、第一巻の発売直前でちょっと僕がビビってしまってですね(笑) 本当に売れるのかなと思っちゃって。そこで発売直前にアニメイトさんに連絡しまして、店頭にも置いて頂けることになりました。第一巻の価格は問屋を通さない値段に設定されていて、直せなかったんです。そのお陰といっては変ですが、1巻に関して言えば6,000本程出ているのですが、大赤字なんです……。限定生産版に同梱しているフィギュアも、(単体発売すると)本当は上代で3000円くらいなんです。そこで、第二巻からはアニメイトさんとも相談して、(流通コストなどを)価格に上乗せする形になりました。そうなると、この辺りの価格がギリギリの所ですね。
『堀さんと宮村くん OVA』 パッケージ。基本的に通常版・特別版・限定生産版は上位互換となっており、どの種類を買ってもDVDパッケージの中身は同じになっている。これも、「差をつけすぎたくない」という想いからだという。
――ちなみに、ウズラヤとアニメイトでは、出ている枚数は……。
山:ちょうど半々くらいですね。やはりオンラインショップを禁止されているファンの子もいるらしくて。クレジットカードが使えない子とか、代引きがいいという子もいるだろうし。そもそも家に荷物が届いちゃうと、「あなた何買ったの!」って言われちゃう子もいるかもしれない(笑)。その点でも、やはりアニメイトさんには置いて頂いてよかったです。
――そのように、本当に届けたい相手が明確に見えていて、そこに向けて計画を立ててゆくことが徹底されていることは非常に見事で素晴らしいですね。
「捨てるところがない」パッケージやグッズなどのデザインも、非常に趣向が凝らされている。こちらは『堀さんと宮村くん』オリジナル・ラバーストラップのコンプリートBOX。アナログ感を出すために、タイポグラフィは山田氏が全て手描きで起こした。使用されているイラストは設定集などからではなく、商品ごとに全てHEROの描き下ろしとなっている。
最終回となる第3回では、ファンも気になる「今後」についてのお話が、いよいよ明らかになる! そして、山田氏が次で目指す挑戦、そして業界に投げかけられる「アニメーター」への新たなアプローチとは? 次回は原作者のHEROさんによるイラスト・メッセージも掲載予定です。
ウズラヤ
http://www.oozlaya.jp/shop/
読解アヘン (『堀さんと宮村くん』が閲覧出来る)
http://dka-hero.com/
スクウェア・エニックスによるHERO単行本詳細
http://www.ganganonline.com/comic/asaosanto/