2003年に日本の4年制大学に初めて独立した「アニメーション学科」(東京工芸大学芸術学部)が設立されてから10年以上が経過し、アニメーションを専門に学んだ後独立して作家活動を行う人達もどんどん増えてきました。しかし、「島国」「日本語」という厚い壁が立ちはだかる環境にある日本では、国際面において未発達の部分も多いのが現状です。日本で活動する作家のみなさんは、「今後、アニメーション作家人口が増え続けたら、ただでさえ少ないお仕事はどうなるの?」「生活するのでいっぱいいっぱい、独立後にオリジナル作品がなかなか作れない・・・。」など、様々な問題を抱えていることでしょう。

今回は、そんな日本を飛び出し、アメリカで活動するアニメーション作家ユニット「Tiny Inventions(タイニーインベンションズ)」桑畑かほるさんに、アメリカのインディペンデント作家事情をお伺いしました。

また、すでに世界中で受賞・上映されているTiny Inventions作品Between Times、最新作Perfect Houseguestに関する制作インタビューもさせていただくという盛りだくさんな内容ですので、2回に分けてお送りします。

商業制作と自主制作を両立させている、世界でも貴重な存在、Tiny Inventions。その実態とは・・・?


写真:ショートショートフィルム・フェスティバル&アジア2015でのQ&Aの様子

―― 桑畑かほるさん、こんにちは。まずは簡単に自己紹介をお願いします!

桑畑:初めまして、Tiny Inventions 桑畑です。2007年よりマックス・ポーターと共同で「Tiny Inventions」を設立しました。主にCGと手作業を混ぜた手法を得意とし、TVコマーシャル、ミュージックビデオ、短編映画の制作をしています。作品はサンダンス映画祭やアヌシー国際アニメーション映画祭など400以上の国際映画祭で上映し、ナッシュビル国際映画祭のベストアニメーション賞など40以上の映画祭にて受賞しました。2011年より一年半のオランダでのレジデンシー生活を終えて、現在は米国ボルチモアのメリーランド美術大学(Maryland Institute College of Art)で教えながら、コマーシャルの制作や短編映画を作っています。

―― アメリカでは現在、短編アニメーション作品の自主制作が多く行われていますか?

桑畑:どうなんでしょう・・・。正直、制作されているインディーズの作品量は国の大きさに比べて少ないと思います。支援がほぼ無い環境での制作なので、やはりお金になる"仕事"の方に流れちゃいますね。

最近はスコット・ベンソンさんを中心としたLate Night Work Clubhttp://latenightworkclub.com/) のように、資金はないけど締め切りを決め、独自で制作して最終的に全員の作品を繋ぎ合わせて4、50分にまとめて、インターネットでリリースするという面白い試みがありました。助成金の仕組みが無い分、自分たちで開拓するという環境です。

動画:Late Night Work Clubトレイラー

―― アメリカは日本と同じように国の支援金制度などがほとんどないそうですね。作家は自主制作のための資金集めをどうしていますか?

桑畑:助成金がほとんどなく、あっても芸術枠なので油絵や彫刻、インスタレーションに比べてアニメーションの立場は弱いです。地域によっては5万円から30万円程度の助成金などもあるので、全く無いという訳ではないんですけど・・・全然足りませんよね(笑)。依頼のお仕事で稼いだお金を自主制作に回すという人は多いです。ある意味、助成金に応募して待つ時間を考えたら、パーッと依頼のお仕事をする方がお金も良いし早いので。

私たちの場合は短編一本目の『Something Left, Something Takenは微々たる助成金と、残りの99%は自腹で、コマーシャルのお仕事からお金を回しました。結果、働き詰めなのに、ものすごく貧乏になりました・・・。二本目『Between Timesは、オランダのレジデンシーでヨーロッパの助成金を50%、残りは自腹です。三本目『Perfect Houseguestは、自腹と現在勤めている美大の教授用研究費で制作しました。そして、現在制作中の四本目『Negative Spaceは、またヨーロッパの助成金を頼ってフランスでの制作です。毎回パズルのように色々と組み合わせていますけど、やはり制作費用は自分の銀行口座から毎回出ています。


写真:2011年、アラブ首長国のアブダビ映画祭。モスクに入る前に女性はヒジャブを着る

―― 映画祭以外で、作品上映や発表の場はありますか?

桑畑:インターネット、展示会、ギャラリー、あとは大学での講演とか。

映像と一緒にセットやパペットを展示して、講演をやったりもします。美大や州立大学の芸術学部からお招きを頂いて講演をするというパターンは増えて来た気がします。


写真:オランダでの展示会"MOVE On…! 100 Years of Animation Art"


写真:2013年、メキシコのカットアウトフェストでの講演

―― インディペンデント作家の商業制作状況について教えてください。どうやってコネクションができますか?どこからお仕事がくるのでしょう?

桑畑:いわゆる広告代理店経由の大きなお仕事は、所属先のプロダクションから回ってきます。しかしテレビコマーシャルは規模と金額が大きい分、なかなか入らないので、普段は自分達で仕事を取っています。

コネクションは・・・皆さん同じでしょうけど、やはり仕事仲間が推薦してくれたり、作品を通して連絡が来たり。あと、これは美大生には嬉しい話!卒業してから5年経過したくらいから、大学仲間がアートディレクターになり始めたので、そこから仕事が来るようになりました。ほぼ50%の仕事が美大仲間経由です。(あの高い学費はこういう形でかえってくるんです!)


写真:米国ノースダコタ州立大学のアート祭でのパネルディスカッション

―― アメリカだと都内のように気軽にクライアントと対面して打ち合わせというわけにはいかなそうですね?

桑畑:基本的にSkype(スカイプ)や電話でのやりとりです。会った事のないクライアントがほとんどですよ。

ニューヨークに住んでいた時は、なんだかんだで、クライアントと打ち合わせはありました。現在住んでいるボルチモアはニューヨークまで車で5時間なので、年に2回くらい行きます。米国人は5時間くらいなら「近い」という感覚です。(正直私には理解不能な距離感覚です。)

―― 他に、アメリカならでは!と思うことはありますか?

桑畑:アメリカ人ってマイナス思考な態度や弱みを絶対に見せてはいけないので、常にポジティブ!打ち合わせでも皆が口を揃えて「このプロジェクトに参加できて嬉しい!」とか「一緒に仕事ができてエキサイティングだ!」という言葉を必要以上に何度も聞きますね。(とびきりのスマイルと共に)

監督として仕事を始めた時に、そういう言葉を発しなかったので、プロデューサーに怒られた事があります。いかに明るく、エネルギッシュに、ポジテイブな態度で、自信満々に!これは正直疲れますが、スムーズに仕事を進める上での必要なテクニックです。

とても役に立つ単語:Exciting, Awesome, Great Job, Amazing, Special, などなど。


桑畑さん、興味深いお話、どうもありがとうございました。助成金の充実したヨーロッパや南米に比べ、自主活動資金捻出が難しいとされているアメリカ。巨大な商業アニメ市場や、華やかな映画祭などの陰でひっそりと頑張っている状況は、日本と似ているかもしれません。ただ、英語が使えると、資金集め・お仕事のコネクションなどが一気に世界へと広がるため、世界中に可能性が転がっている状況は羨ましいですよね。参考にしたい部分です。

それでは、Tiny Inventionsのお仕事の一部をご覧ください!

『ラルフローレン・キッズコレクション(Ralph Lauren Kids Spring Collection

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『PBS Orajel and Arm & Hammer (テレビコマーシャル)

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They Might Be Giants ミュージックビデオElectric Car


続いて、短編アニメーション作品Between Timesについてお伺いします。実写とCGが融合した"ハイブリッドアニメーション"を得意とするTiny Inventionsによる、作品制作の舞台裏に迫ります。

まずは『Between Timesトレイラーをご覧ください!

― 『Between Timesについて教えてください。どんなお話ですか?

桑畑:小さな街のパン屋での、ある日の鳩時計のお話です。人によって時間がゆっくり流れたり、ものすごい早さで去ってしまったりと、色々な人の時間に対する想いを物語にしました。

―― 本作制作に至った経緯を教えてください。

桑畑:2011年から一年半ほどNetherlands Institute for Animation Film(NIAf http://www.niaf.nl/en/)のアーテイスト・レジデンシーで制作をしました。ニューヨークに10年間住んだ後に、のんびりとしたオランダの田舎町に引っ越し、時間の流れの違いに戸惑いました。そんな想いを映像にしようと時間について色々と調査し始めた所、アインシュタインの相対性理論に辿り着きました。熱いストーブの上に手を乗せると一分でも一時間くらいに感じますが、かわいい女の子と一緒に過ごす一時間は一分にしか感じられない・・・という事です。


写真: NIAFレジデンシーの様子

―― 本作でのTiny Inventionsのお2人の役割分担を教えてください。

桑畑:大まかに説明すると、脚本、絵コンテ、アニマチックは一緒です。デザイン、人形、セット、アニメーションは私。撮影、編集、コンポジティング、ビジュアルエフェクトはマックスです。モデリング、テクスチャーは分担です。(マックスの方が上手なのでメインは彼。)

こう言うと前半私、後半マックスのようですが、細々と分けると役割は結構行ったり来たりします。

―― 制作過程が映像などで観られるそうですね!

桑畑:オンライン・チュートリアル大御所の、Lynda.comhttp://www.lynda.com/が制作現場のミニ・ドキュメンタリーを制作したので、映像でどうぞ。

桑畑:制作はいつもブログに記録してあるので、そちらでもどうぞ。
http://www.tinyinventions.com/blog/?cat=13
ここ一年は映画祭の報告ばかりですが、時間を辿ると制作現場の写真などもあります。

―― 制作環境について教えていただきたいのですが、自宅兼アトリエというかんじなのでしょうか?

桑畑:ここ数年、毎年制作環境が変わっています・・・。アトリエがあった時もあれば、自宅制作の時もあります。この夏は撮影用のアトリエがありました。プロジェクトによって必要なスペースが全く違うので、ケースバイケースです。


写真:『Between Times』制作時のオランダでのスタジオ


写真:現在住んでいる町、ボルチモアのスタジオ

―― Tiny Inventionsの作品は、実写とCGの境目が判らなくて、現実と非現実の境目も判らない、みたいな、"すぐそばにありそうで全く知らない世界観にドキドキワクワクする感じ"がとっても魅力的だと思うのですが、そのあたりって意識されているのでしょうか?

桑畑:うわっ、そう言って頂けると嬉しいです。それは、意識しています。アイデイアのほとんどが実体験を元に構成しているので、そこが現実的な部分。感じた事を比喩化したり誇張したりすることで非現実的にする形です。

―― 実際、『Between Times』では、どこまで実写でどこからCGなのでしょう?オブジェクトだけでなく、光や陰、エフェクトなど、細かく組み合わせて演出されているようですが・・・

桑畑:キャラクターとキャラクターが触るオブジェ(マグカップ、鉛筆、窓、ポットなど)はCGです。他は一応実写ですが、もうシーンごとにごちゃごちゃですよ。鳩時計なんて、実はCGバージョンもあれば、実写を使ったり、半分半分だったり。今思うと、もう少しCG化した方がスムーズに制作が進みました。

照明はほぼ実写で、キャラクターの陰はCGです。実際の照明の距離を全部測って同じような距離でCGで再現するという二度手間ばかりです。プロダクションが始まってから最初の一年は試行錯誤だらけでした。やっと慣れた頃に制作が終わってしまった気がします(涙)。

エフェクトなどに関しては、シーンごとによって、本当にゴチャゴチャなんですよ(笑)。エフェクトっぽいのに、実はストップモーションだったり、その反対にストップモーションに見せかけたCGとか。自分たちでもあまり予期できない制作現場でした。


写真:撮影の様子

―― 使用しているツールやソフトウェアについて教えて下さい。

桑畑:ソフトは、Cinema 4D, Dragonframe, After Effects, Premier, UVLayout, Mudbox
ハードは、カメラがキヤノン EOS 7D、照明はDedo Lightです。

桑畑かほるさん、どうもありがとうございました。次回は最新作『Perfect Houseguest』についてお伺いします。お楽しみに!


どこからが現実…?Tiny Inventions桑畑かほる監督インタビュー2:世界で愛される最新作『Perfect Houseguest』


『Between Times』

監督、シナリオ、デザインアニメーション、カメラ:Max Porter and Ru Kuwahata
作曲、サウンドデザイン:Bram Meindersma(ブラム・マインダースマ)
声優:Petra Schmidt-Schaller(ピートラ・シュミッドーシャラー)
CGリギング:Brian Horgan(ブライアン・ホールガン)
ミュージシャン: Max van der Wal & Simone Aarnink(マックス・バンダーバルとシモネ・アーニック)
サウンドミックス:Studio Unknown(スタジオ・アンノーン)
プロデューサー: Ton Crone (トン・クローネ)

受賞歴:
Jury Award – Best Animated Short Austin Film Festival, USA (’14)
Best Animation Award Boston International Film Festival, USA (’15)
#1 Mention Expotoons, Argentina (’14)
AACA Special Award Expotoons, Argentina (’14)
Honorable Mention CG Anime Contest, Japan (’14)
2nd prize:Athens International Film and Video Festival, USA (’15)
Local Jury Award: USA Film Festival, USA (’15)
1st place, Independent Film Category: ASIFA-East, USA (’15)
Animation Film Finalist: Moondance Film Festival, US (’15)

上映歴:
Holland Animation Festival(オランダ), Anima Mundi(ブラジル), Siggraph(米国), Animated Dream(エストニア)、文化庁メディア芸術祭、ショートショート フィルムフェスティバル & アジア、札幌短編国際映画祭など


Tiny Inventions
http://www.tinyinventions.com

vimeo
https://vimeo.com/tinyinventions