こんにちは。アニメーション作家の久保雄太郎です。これで3回目の更新となりますが、バンクーバーでの生活も残りわずかとなってきました。それでは最近のこちらでの生活を書かせていただきます。
5月の頭に行われたエミリーカー美術大学アニメーションコースの卒業制作の上映会へ行ってきました。
バンクーバーにある、YOAKというミニシアター。入場料は1000円くらいだったでしょうか、一般的な上映会の金額だったと思います。
上映環境も広さもても良い場所でした。
紙に直接手描きの作品は1本、立体の作品も確か1本、カットアウトの作品は2、3本でした。やはり全体的には3Dもしくはデジタル2Dの作品が多くありました。
その卒業制作の中から3作品が選出されており、その中から1作品最優秀作品を決めるというコンペのようなものもありました。選ばれたのは『It's A Flower』というタイ人の卒業生の作品。
こういうのはやはり盛り上がるもので、歓声が上がっていました。デジタル2Dの作品でよく動かしており、個人的にも納得の結果でした。まだ、web上での公開はしていないため、紹介はスチールのみで。
これからどこかの映画祭で見る機会があるかもしれません。
ダウンタウンにはギャラリー、美術館が多くあるのですが一番有名なのがVancouver Art Gallery(http://www.vanartgallery.bc.ca/)という美術館。
最近セザンヌの企画展が行われていたので見に行ってきました。残念ながら写真はありませんがとても充実した展示内容でした。
常設展には作家エミリー・カーの展示があり、そこでは、撮影も可能で展示してあります。
その他にも常設展スペースにカナダ、バンクーバーの作家の展示を行っており、映像の展示も行っていました。
壁一面に総柄のアニメーションを上映していたもの。
良いものだったんですが、一部の壁でMacのDockが出ていたため、ただのスクリーンセーバーに見えてしまうな~と、少しもったいなく思っていたら、別日に行った友人聞くと普段はDockは出ておらず、機材トラブルだったようで、少し残念。
その他にも、近隣の大学院生のためのCDM(Centre for Digital Media)という施設で行われた成果発表会を聴講させていただきました。
ここでは、各大学院の院生が合同で研究を行っており、今回の発表は基本的に院生が企業に向けてプレゼンテーションを行い自分を売り込むというのが目的のもので、本来は関係者のみの参加なのですが、今回は特別に参加させていただきました。
日本との大きな違いとして、商業と近づけようとした意識がとても高いように感じました。日本の美大の院生の作品は、作家としての研究成果という印象が多いように思うのですが、ここで見た作品は全く逆で、ゲームやエンターテインメント性が高い作品が並んでいました。
それも、この施設で共同制作を行っている院生は、美術領域の院生と、工学部や、それ以外の分野の研究を行っている院生とが共同で制作をしている為で、単に美術領域の発表とは異なったものとなっていました。ただ、年によってはアートとして作品を発表している学生もいるとのことでした。
日本でも近隣の美大や一般大で共有出来る研究スペースなどがあるとなにか面白い事が出来るのかもしれません。
写真はプレゼン後の展示会場での様子。
パーティー形式で食事とお酒を頂きながら、学生が各自の作品に興味を持って集まっている人に、自分の作品、活動の話をしていました。実際この場がきっかけで仕事に繋がる場合も多いそうです。
そして、最近のメインイベントが、インタビューです。
アニメーション監督以外にも、もう少し、メディアアート寄りの活動をしている方にもお話を聞かせていただいたりしています。
その中の一人のバリー・デュペ(Barry Doupé)さん。
彼はバンクーバーを拠点に活動するインディペンデントのアニメーション作家で、短編より、長編の印象が強い作家かと思います。また最近では実写の作品も発表しています。
そんな彼の紹介で、VanDusen Botanical Gardenという公園を歩きながら作品の話や助成金の話を聞かせていただきました。
園内は手入れされた植物やモニュメントなどがあり、途中「ほら見て、奇麗だね~」とか話しながら進み、写真を撮り忘れてしまいましたが、中には「アリス」に出てくるような迷路なんかもあって、いろいろと楽しめるかなり広めの公園でした。
迷路と言えばミノタウロス。
ここではあまり作品の話を聞く事が出来なかったため、後日改めて自宅のスタジオに伺いました。今回の研修で特に話を聞きたかった作家だけにとても有意義なインタビューが出来ました。主には作品、助成金の話から、作品を作る上でのあり方など、深い所までお話を聞くことができました。
バリーさんはエミリー・カー美術大学の出身で、学部生の頃は手描きのアニメーションを制作していましたが、卒業後の作品は3Dのアニメーションが多く、3Dで作品を制作する行程が時間の関係上も一番合っているとの事でした。学生時代の話を少しお聞きすると、シャイな学生であったらしく、自分のみならず、「アニメーションはシャイな人を引き付ける何かがあるように思う」と言われていて、どこか分かるように思いました。僕のこれまでの感覚でもシャイな人は多いように思います。不思議ですね。
少し驚いたのは、助成金の情報や、そのための応募書類の書き方なども、大学で学生時代に先生から習ったとの事でした。日本では、この部分の教育をしている所は少ないように思います。そういった部分を学ぶ場面がもう少しあってもいいのかもしれません。
これまでに彼は2本も長編を制作しているのですが、その長編作品も一人で制作し、音までデザインしてしまったようです。そして現在制作中の作品も長編との事で非常に楽しみです。
長編を1本作る事さえ、とても驚くような事なのですが、彼は別の仕事もしており、その中で時間を作り制作をしています。そして、制作が始まると完成まで基本的に休む事はなく、優しい人柄からは想像出来ないほど妥協を許さない人物でした。
写真は作業場です。
こちらは、イメージボード。
普段はコンテであったりを準備しないようですが、助成金の関係で必要だったという事もあり制作したとの事でした。ちなみに実際には制作された作品は別の物だったようです。
オリジナル以外には、ギャラリーからの依頼で制作した作品など依頼作品も数本手がけているようでしたが、自分のスタイル以外の作品の話は受ける事は無いとの事でした。どの様な形でアニメーションと向き合うかは人それぞれなのですが、個人的に作家としてはとても尊敬出来るあり方です。
丁度良いのが見つからなかったのか、シャツをカーテン代わりに使っていてとても素敵でした。
さらに詳しい情報はHPの方にあるので、気になる方はそちらからどうぞ。
Barry Doupé
http://www.barrydoupe.ca
バンクーバーに来てから、何度もお世話になっている果歩さんが今年エミリー・カーを卒業し、現在は子供向けの立体アニメーションのスタッフをしているので、その制作現場を見学させていただきました。
教会に併設されている珍しいスタジオです。
まだ公開前なので、あまり写真は載せられませんが、Kids’ CBCというカナダの子供向けのチャンネルで放送される予定だそうで、とても可愛らしい作品でした。
セットはこれまで実際に見たセットの中で一番大きな物でとても迫力がありました。載せられないのが残念。写真がブレてしまっていますが、写真の奥の方がメインアニメーターのLynnさん。
こちらは、果歩さんがアニメートを担当しているキャラクターの手元のカット。
細かいセットの道具も作られていました。
僕も何度か立体アニメーションも作った事がありますが、セットなど小道具を作るのが本当に苦手なので、立体の現場を見ると本当に毎回驚いてしまいます。
その後一緒に軽くお酒を飲みながらアニメーションについて色々話していると、監督のLynnさんは昨年のオタワ国際アニメーション映画祭に参加しており、ありがたい事に僕の作品を覚えてくださっていました。
作品ももう少しで完成との事なので、どこかで見られる事を楽しみに待とうと思います。
下の写真はLynnさん(左)と果歩さん(右)
そして先日まで行われていたFIFA女子ワールドカップも見てきました。
街全体が盛り上がっており、意外にも日本人以外の多くの方も日本を応援してくれていました。
優勝は逃したものの健闘した日本選手の皆さんのおかげでとても楽しく観戦出来ました。
他にも最近までバンクーバーでは、ISEA2015 (International Symposium on Electronic Art)という電子芸術のシンポジウムが開催されており、バンクーバーのギャラリーなどで様々な展示、論文発表、ワークショップなどが行われていました。これは、毎年開催場所が異なるイベントで、年に一回世界のどこかで行われているそうです。
この写真は、カナダの先住民についての映像をギャラリーの壁に上映している展示
こちらは、以前衣類関係の小さな工場であった場所。
ここで行われている展示は空間アート的な作品でした。
これはなかなか面白かったです。工事現場の足場の様なものが張り巡らされており、狭いのですが、点滅する照明の演出などの効果で逆に広く感じる、空間の終わりがどこまであるのか分からなくなる様な感覚があり、たのしめました。
衣類関係の工場だったので、ドア止めがミシンだったりします。
今振り返ると僕は日本に居た時アニメーション以外の展示、上映に行く事が少なかったのですが、バンクーバーに来てから周りの友人影響で色んなジャンルの展示に行くようになったな~と思います。もうすぐこの研修も終わってしまいますが、帰国後も色々と足を運ぶべきだと再確認しました。
とは言いつつアニメーションについての告知なのですが、8月28日~31日まで国立新美術館にてICAFという日本の学生アニメーションを一同に上映するイベントが開催されています。僕の作品もレトロスペクティブのプログラムで上映されます。是非足を運んで頂ければと思います。
今年のICAFでは"これまでのICAF"も観られる?!インター・カレッジ・アニメーション・フェスティバル2015
そして最近Adobe JapanさんのWebアニメーション、Adobe Creative Cloud フィロソフィビデオ『色を喰うアクマ』制作に参加させて頂きました。10人の作家が各パートを担当しています。是非ご覧いただければと思います。
https://helpx.adobe.com/jp/mobile-apps/how-to/create-video-color-looks-adobe-hue.html?promoid=KSPCC
恐らく次回は最終回になると思います。そして次回はいろんなアニメーション作家さんとお会いしたお話が出来るかと思います。楽しみにお待ちください!それでは今回はこの辺で。読んで頂きありがとうございました。
文化庁・新進芸術家海外研修制度
http://www.bunka.go.jp/geijutsu_bunka/05kenshu/
Emily Carr University of Art + Design
http://www.ecuad.ca/http://www.ecuad.ca
久保雄太郎(vimeo)
https://vimeo.com/yutarokubo