お久しぶりです。前回、【小谷野萌のアーティスト・イン・レジデンスinデンマーク/TAW Open Workshop レポート1という記事を書かせていただきました小谷野萌です。わたしがデンマークに来て早くも半年が経とうとしています。その間、友人が作品制作やインターンの期間を終えてそれぞれの国に帰って行ったり、また新しいアーティストが来たりと、相変わらず人との出会いと別れが絶えません。

第二弾である今回のレポートでは、TAW(The Animation Workshop)の学生たち、わたし自身のプロジェクトの現状について、そして夏のデンマークの様子をお話ししたいと思います。


デンマークにも、桜が、咲く!

5月中旬にTAWの1年生たちが作ったキャラクターアニメーションの上映会がありました。一年間基礎を学んできた学生たちの集大成とも言える上映会で、彼らのプレゼンテーションを聞くことができました。


TAWと隣接しているVIA Universityの校舎


たびたびトークイベントなども行われる大きなスクリーニングホール

グループ制作である作品はどれもTVペイントなどを使用してつくられたデジタルアニメーションで、1~2分ほどの尺でしたが、とても見応えがありました。4~7歳のこどもを対象としていて、また、ひとつのキャラクターを動かすというコンセプトがあるため、カラフルでかわいらしい作品が多かったです。


1年生たちの作品上映会、SHORT SHORT FILMS 2015 ポスター

ひとつのチームは7~8人で構成されており、監督、デザイナー、制作、コンポジッター、プロデューサーなど役割が分かれていて、将来スタジオに入ったりする上でのワークフローをここで既に体験しているようでした。プレゼンテーションを聞いていて印象に残ったのが、すべてのチームが"Inspiration"という形で、制作する上でリスペクトした作家や参考にしたアートやデザインを紹介していた点です。わたしが日本の学校に在学していたときには、プレゼンテーション内でこういった項目はなかったので、「この作家のこのデザインのいいところをひとつまみ、この作品からひとつまみ…」という考え方を共有しているのが新鮮でした。

TAWの学生たちは一年次でアニメーションの基礎を学び、二年次には3DCGやモデリング、そして三年次でBAC(バッチェラー:卒業制作)フィルムのグループ制作を行います。(アニメーターやデザイナーとして会社で働くことを意識しているせいか、基本的にはみんながグループ制作。卒業後学校が映画祭に提出するためのポスターやトレイラー、プレスキットなどもグループみんなで制作します。)最近新学期が始まったBACコースでは、新三年生たちが卒業制作の作業を始めているところです。


BACコースの部屋。新三年生たちが作業を始めたばかり。


友人のCamillaさんとチームメイト。彼女たちはロシアの女性パイロットについてのドキュメンタリーアニメーションを制作しています。

しかし、学校の卒業シーズンは6月。では現三年生が何をしているのかというと、みんながいっせいにインターンシップに行っています。学生時代、私の周りではおのおのの卒業制作、論文などを作りながら、就職を希望する会社にインターンシップに行くというのが普通でしたが、ヨーロッパでは学校側がインターシップ制度を強く推奨していて、BACフィルムは夏休み前には完成させ、そこから学生はいっせいに国内外のさまざまな場所にインターンシップに出かけます。期間は受け入れ先の会社によってそれぞれですが、長くて4ヶ月、多い人は3、4箇所行く場合もあるといいます。友人に聞くと、インターンシップはその会社に就職するという前提ではなくスキルアップが目的であって、そこで学んだことを卒業前にポートフォリオにまとめたり、フリーランスでやっていくひとは人脈を広げたりという期間だと捉えているようです。またインターンシップに行かない学生は、作家志望の場合わたしのいるOW(Open Workshop)にアプライしてそのまま学校内で自分の作品制作をしたり、前回のレポートでも紹介した学校と隣接しているアーセナルという場所でスタジオのアシスタントをしたりしています。学生時代に就職活動と作品制作の同時進行で苦労したわたしにとって、これはとても羨ましいシステムです。今年度のBACフィルムのプレミア上映は来年の1月。上映会が楽しみです。


廊下に飾られている過去のBACフィルムのポストカードたち

さて、次に現在進行中のプロジェクトについて少しご紹介したいと思います。わたしは今まで抽象的なアニメーションを多く作ってきましたが、大学院の修了作品で初めて台詞のある物語アニメーションを制作しました。今回もまたストーリー性のある作品を制作しています。しかし、前作が自分の実体験をもとにしたドキュメンタリーに近いものだったのに対し、今度は完全なフィクションです。こちらに来てからの2ヶ月は絵コンテやビデオコンテをいろいろな人に見せ意見をもらうというのを繰り返していましたが、春から夏に掛けてはアニメートに集中していました。TVペイントなどにも挑戦しましたが、技法は相変わらず紙にインクペン。現在はアニメートをほぼ終えて、これから編集作業に移るところです。


現在制作中のアニメーションのラインテスト画面

また、音楽に関して素敵な出会いが二つありました。
まず紹介したいのが同時期にOWに来たわたしの大好きな、ベルギー出身のSoetkin Verstegenさんhttp://www.soetkin.com/)。

彼女はストップモーションやドローイングをミックスしたドキュメンタリーフィルムを作っています。


赤の似合うSoetkin


Soetkinとわたし


Soetkinのつくるご飯がおいしい

彼女の紹介で、現在おなじOWで作品をつくっているイタリア出身のMartina Scarpelliさんと知り合い、卒業制作『COSMOETICO』を見せてもらいました。ねっとりとした威力のある彼女の作品はとても魅力的です。


『COSMOETICO』Martina Scarpelli

またアニメーションだけでなく音楽もとてもよかったのでそのことを伝えると、Martinaさんを通してコンポーザーのAmos Cappuccioさん(https://vimeo.com/user40874092)とコンタクトを取ることができ、わたしの新作の音楽を依頼することになりました。AmosさんはMartinaさんが現在制作中の新作の音楽を手がけるため8月にTAWを訪れ、その間に彼と二人でミーティングをすることができました。拙い英語で音楽の要望を伝えるのは大変でしたが、彼の親しみやすい人柄に助けられ今後のコラボレーションがますます楽しみになりました。


ほろ酔いのAmosとわたし

もうひとつは、わたしがこちらに来る以前、OWの存在もまったく知らなかったころ、あるイタリア人のコンポーザーとFacebookで知り合いました。彼はどこかの映画祭でわたしの作品を見てくれたらしくメッセージをくれたのでした。わたしが「いつかヨーロッパに行って作品をつくりたいと思っている」と言うと、「きっとすぐだよ」と返してくれたのを覚えています。なんとその彼AndreaさんがTAWのゲスト講師としてデンマークを訪れ、実際に会うことができました。作品のビデオコンテも見てもらい、音のアドバイスを受けることもでき、不思議な縁だなあとうれしくなりました。今年の12月にはAmosさんはわたしの作品を、AndreaさんはSoetkinさんの音楽を制作するためにまたTAWに戻ってきます。この出会いに感謝しつつ、まずはわたしが映像をしあげなくては!


ほろ酔いのAndrea とわたし


話し込んでいる作曲家たち。AmosとAndrea

さてさて、最後にデンマークでの夏を少しご紹介します。早くも秋の気配が漂うデンマークですが、今年は誰もが口をそろえる「冷夏」でした。7月でもセーターを着込まなくてはならなかったりなかなか暖かい日差しにお目にかかれない日が続きましたが、夏日にはここぞとばかりに近くの湖へ行ったり、OWのメンバーで車で海に遊びに行ったりしました。


7月下旬、とても寒かったけど空がきれいだった海。

学生や学校のスタッフは長期休暇に入り自分の国に帰ったり、別荘に遊びに行ったりしていました。そして夏休みの初めには、学校からアヌシー国際アニメーション映画祭(フランス)に行くためのバスがでて、みんながそれを利用してフランスへと去ってゆきました。みんながアヌシーへ旅立っていくようすを眺め、もぬけのからと化した学校でアニメートに励んでいました。


アヌシー行きのバス…


Viborgから車で片道2時間半くらい掛けてSkagenの海


二つの海が入り混じる岬に人が集まる。

写真はデンマークの最北端にあるビーチ、Skagen(スケーイェン)。バルト海と北海が出会う岬で両方の海に同時に立つことができるという観光スポットです。写真の左側が北海、右側がバルト海。みんながビーチの先端に集まっています。


Viborgの湖で行われた夏至を祝うお祭り

デンマークではミッド・サマーフェスティバルといって、一年で日が一番長い夏至に魔女に見立てたカカシを燃やすお祭りがあります。ヴィボーの湖でもそのイベントが。夕方のTVニュースではデンマーク各地のお祭りのようすが報じられていました。まるで日本の「どんど焼き」みたいです。こちらの夏は夜11時でも空がほんのり明るかったりします。


湖の近くで行われた音楽フェス

夏の間、二回ほど大きな音楽フェスがあったヴィボー。普段、町のお店などは夕方5時半でほとんどが閉まってしまうので(一番遅くまでやっているスーパーも夜10時まで)。若い人たちはイベントがあるとここぞとばかりにホットドッグとビールではしゃぎます。物価がかなり高いのでレストランなどでの外食もほとんどしません。みんながスーパーなどで食材を買い調理します。誰かの誕生日や送迎会、毎週末、学校のチルアウトでは何かしらのパーティーがあって、これはこれで和やかなのです。


学校のチルアウトで友人の誕生日パーティー


寿司の作りかた講座

またヴィボーから電車で一時間半ほどの都市オーフスにはAROS(アゴス)ミュージアムという現代美術館があります。


AROSの外観


そういえばこちらの建物は回転扉が多い気がします。

とても広い美術館で、地下にはロン・ミュエックの作品が常設してあります。ロン・ミュエックは、私が初めてヨーロッパに来たときにパリの展示を見て以来好きな作家なので久々に彼の作品を見ることができうれしかったです。


美術館の目玉でもあるロン・ミュエックの作品


建物のデザインや扉のつくりも面白い

わたしのお気に入りは、視界を失うカラフルなスモークが充満しているこの部屋です。目の前の壁や手すりも30センチくらい近づかないと見えないので、結構怖いですが自分がどこにいるのかわからない不思議な感覚になります。一緒に行った閉所恐怖症の友人は部屋の外で待っていました。

そして最後は建物の頂上にある、美術館の一番の特徴でもあるレインボーな空間。

その他の展示もすばらしいので、デンマークにお越しの際は是非足を運んでみてはいかがでしょうか。

このように、ヴィボーの町でのんびりくらしながら作品をつくり、たまに旅行にでかけたりして過ごしています。作品完成まであと半年、こちらでの生活を楽しみつつしっかり制作に励みたいと思います。

また、最後に告知させていただきますが、前回のレポートでも少しご紹介させていただいた現代美術作家の山口貴子さんが10月に開催される中之条ビエンナーレ2015にて『Clea the night』という上映会を企画されました。そこでSoetkinさんと私のアニメーション作品も上映されます。私は過去作品のほかにこの上映会のための短い新作を上映予定です。現代美術作家の視点で集められた作品群、どのようなイベントになるのか楽しみです。詳しくは以下のHPをご覧ください。

Clea the night 特設ページ
http://nakanojo-biennale.com/event/clear-the-night/

中之条ビエンナーレ2015公式HP
http://nakanojo-biennale.com/

どうぞよろしくお願いいたします。


中之条ビエンナーレで上映予定の新作『Falling』

Hej! Hej!


小谷野 萌
http://koyanomoe.tumblr.com/
https://vimeo.com/moekoyano

The Animation Workshop
http://www.animwork.dk/en/