はじめまして、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻に在籍している木下絵李(きのしたえり)と申します。今回は、2015年10月23~27日に韓国・富川(ブチョン)市で開催された第17回ブチョン国際アニメーションフェスティバル(以下BIAF)の様子をレポートします。共に作品がノミネートされている大学院で同期の小川育さんと一緒に参加しました。
これまで海外の映画祭には何度か足を運んだことがありますが、ゲストとして参加するのは今回が初めてなので少し緊張します。とは言ってもお隣の国、韓国までは成田空港からたったの2時間半。あっという間に仁川(インチョン)国際空港に到着です。
空港まで、友人のジンギュ君(Jin Kyu Jeon http://jinkyujeon.com/)が迎えに来てくれました。
向かって左から、小川さん、私、ジンギュ君。
彼とは昨年藝大で行われた「日中韓学生アニメーション国際共同制作プロジェクト(通称Co-Work)」で知り合いました。Co-Workとは、日本・中国・韓国の3カ国の大学でアニメーションを勉強している学生達でチームを作り、10日間を共に過ごしながらアニメーションを制作するというプロジェクトです。現在ジンギュ君は韓国芸術総合大学(K-Arts)を卒業したあと、大学の仲間が立ち上げた「スタジオ・シェルター(http://studioshelter.co.kr/index.html)」というアニメーションチームでインターンシップをしており、この日の翌日にスタジオを訪問させてもらう予定になっています。
ジンギュ君と一緒に、空港から地下鉄でソウル中心近くのドルゴジ駅へ。
首都圏地下鉄やバスなどで利用できるプリペイド式交通カード「T-money」を購入。
先ほど紹介したCo-Workに参加していた、他の韓国のメンバー達と約1年ぶりの再会を果たし、みんなで夕食を食べに行きました。
タッハンマリという、鶏を一羽丸ごと煮込んだお鍋です。あっさりしたスープに鶏の出汁がよく効いていて、シンプルながらとても美味しかったです。
夕食のあとは、友人達が通う韓国芸術総合大学を見学させてもらいました。藝大アニメーション専攻のキャンパスに比べると、とにかく広い…。
遅くまで学校に残って制作をする学生の姿が。
出前のチラシと思われる紙がドアの前に貼ってありました。
コンクリートの壁には、歴代生徒の落書きがたくさん。
翌日。映画祭開幕の日ですが、まずは先述した「スタジオ・シェルター」の見学へ。シェルターのみなさんが予約してくれたレストランで昼食をいただきました。
ブリのお鍋。見るからに辛そうですし、辛かったです。私は辛い味付けは平気なので美味しくいただきました。
手前にあるモヤシの入ったスープは、強烈なニンニクの味がしました。
お昼ごはんで打ち解けたあと、シェルターへ。小さなビルのワンフロアを利用したスタジオで、大きなガラス窓から光が差し込む居心地の良い空間でした。シェルターが手がけたミュージックビデオや、現在制作中のウェブ配信アニメーションなどを見せてもらいました。
メンバーのみなさんと記念撮影。
途中、おやつに柿を出してくれたのですが、なぜか皮を剥いていない状態でまるごと出され、一瞬面食らうものの、手にとってみると皮がとても薄いことに気付いてびっくり!そして実が熟れてぷよぷよしている!この薄い皮を、イチジクの皮のように手で剥き、実はスプーンですくって食べるのだそうです。とっても甘くて美味しい…。その後訪れた韓国のスーパーでも、柿はぷよぷよの状態で売っていました。このような食べ方をしたことがなかったので驚きましたが、日本でも地域によっては同じような食べ方をするところがあるのでしょうか?
映画祭レポートなのに、食べ物のことばかりで申し訳ありません。お待たせしました、ようやくBIAFの会場に到着です。
存在感を放ちながら人々を出迎える、BIAF公式キャラクターのモンスター達
会場の入口
今回日本からは短編・長編あわせて計11作品がコンペティションにノミネートしており、私と小川さんの作品は「Graduation Films」という学生部門のプログラムで上映されることになっています。BIAFは、実は昨年まで「プチョン国際学生アニメーションフェスティバル(PISAF)」という、学生作品限定の映画祭でした。今年から学生とは別に一般から募集した短編作品の部門や、長編部門、商業部門、オンライン部門のコンペティションが加わり、“国際アニメーションフェスティバル”のBIAFとして生まれ変わったのです。
そしてPISAFとしては最後の回だった昨年度、『コップの中の子牛』でグランプリを獲得した、藝大アニメーション専攻第五期修了生の朱彦潼(シュ・ゲンドウ)監督が、今年のメインビジュアルと短編部門の審査員を担当されました。
朱さんによるメインビジュアルがプリントされたマウスパッド
開会式です。映画祭の広報大使として、アイドルグループ・少女時代のサニーさんが来ることになっており、会場ではたくさんのメディアがサニーさんの登場をいまかいまかと待ち構えていました。
特にこれといった合図もなく突如始まったダンスパフォーマンス。
「Ani+One」というのが今年のBIAFのテーマです。
映画祭組織委員長の挨拶や審査員紹介が済んだところでサニーさんが登場。想像していたより背が低く、華奢で可愛らしい方でした。
サニーさんがいなくなると、メディアも去っていきました。
開会式終了後の会場で、引き続きオープニングフィルムが上映されました。今年のアヌシー国際アニメーション映画祭で長編部門のグランプリに選ばれた『Avril et le Monde truque(英題:April and the Extraordinary World)』。初見な上に、フランス語音声+韓国語/英語字幕だったので、内容を完全に把握できた自信はありませんが、個人的には作中に登場する乗り物がどれもカッコよくて興奮しました。あと主人公の相棒の猫、ダーウィンが良い動きをします。とてもおもしろかったので、日本での劇場公開を願ってやみません。
上映後、時刻は21時近くになっていました。ゲストはバスに乗ってオープニングレセプションの会場へ移動します。
オープニングレセプション=立食のパーティーという勝手なイメージを抱いていたのですが、広い会場にはテーブルと椅子がたくさん用意されており、5~6人でテーブルを囲み座って食べるスタイルでした。
会場でずっと日本のアニメのサウンドトラックが流れていて不思議な気持ちになりました。
ホテルに帰ったのは0時近かったでしょうか… 今回、ホテルは個室を用意していただきました。会期中は毎晩遅くまで食事や観光で出歩いており、ホテルに帰ってくる頃にはヘトヘトになっていたので、個室でゆっくり休むことができるのはとてもありがたかったです。
広くて綺麗なお部屋でした。
2日目以降は、短編コンペティションのプログラムを中心に映画祭を楽しみました。上映会場は主に2つあり、1つは開会式が行われた韓国漫画博物館(http://www.komacon.kr/comicsmuseum/)内の上映館。ここでは長編プログラムの上映やマスタークラスなどが行われていました。もう1つはヒュンダイデパートの中にあるCGVという一般の映画館です。短編作品は全てCGVの劇場で上映されました。2つの会場のちょうど中間地点にゲストが泊まるホテルがあり、毎朝ホテルから会場まで15分ほどかけて歩いて行きました。(実はホテルから各会場を巡回するバスが毎日出ていたらしいのですが、朝起きるのが遅かったために一度も乗ることはありませんでした)
ホテル周辺の景色です。外壁がハングル文字で埋め尽くされたビルの、情報量が多すぎて訳のわからない感じが私はとても好きでした。ブチョンはソウルやプサンのような観光都市に比べると静かな街で、私達以外に日本人の姿をほとんど見かけませんでした。
ここが短編作品の上映会場であるCGV。
BIAFのチケットは特設スペースで販売しています。
短編コンペティションは一般部門、学生部門ともにそれぞれプログラムがA~Dの4つあり、私と小川さんの作品はたまたま同じプログラムだったので一緒に監督挨拶をしました。事前に用意していた英語の原稿をもとに、当日は映画祭スタッフの方が韓国語で同時通訳してくださいました。
自分の作品をこのような映画祭の場で見るのは初めての経験でしたが、全く知らない作品の中に混ざって自分の作品を見ると、これまでとは違った印象を受けました。上映トラブルもなくて一安心。各プログラムは会期中に2回上映があるのですが、1回目の上映では観客賞を決めるための投票が行われます。お客さんがそれぞれ良いと思った作品をひとつだけ選んで投票するシステムです。2回目の上映では投票ができないことになっているので、初日の朝一で最初の上映が終わってしまったプログラムには投票できず無念…。
左:観客賞を決めるための投票用紙。作品タイトルの右側に書いてある番号の部分をちぎって投票箱に入れる。
右:短編作品の上映会場。約100人が収容可能な広さ。
午前の上映が終わると、劇場のすぐそばにあるイタリアンのお店へ。今回、映画祭から2つのレストランとカフェで使用できる食事クーポンを頂いたのですが、こちらのレストランで注文できるのは”パスタセットのみ”とのことで、「毎日パスタっていうのもねぇ…」と思いつつとりあえず行ってみたところ… 選べるパスタの種類が豊富(15種類ほどありました)、そしてパスタはもちろん、セットで出されるサラダやスープ、デザートなどがどれもたいへん美味しくて、大満足。結局3日連続で通いました。ちなみに、もう一方のレストランでは他の海外ゲストの方と一緒にプルコギを食べました。
パスタセット(3人前)
プルコギはすき焼きみたいな味でした。
映画祭2日目の夜には「アニメーターズナイト」というゲスト同士の交流会がホテル近くのパブで行われました。初日のオープニングセレモニーよりもっとカジュアルな雰囲気で、ビール片手にワイワイお喋りしました。
映画祭スタッフのリーさん。ホテルへの送迎手配や、監督挨拶の原稿を事前にやり取りするなど、韓国で快適に過ごせるようにコーディネートしてくださいました。
短編作品のプログラムを全て見終わったあと、せっかくなので半日だけソウルの観光もしました。実は私にとって韓国は2度目の訪問なのですが、ソウルは初めてだったので、定番の観光スポットを中心に散策しました。
光化門広場にて、世宗大王の銅像。ハングルを制定した王様だそうです。
奥に進みます。
光化門の奥にあるのが朝鮮時代の王宮、景福宮(キョンボックン)。後ろに広がる山の風景が荘厳でした。
実は景福宮の内側から光化門の方を振り返ると、眼前には近代的なビル群が広がっているのです。情緒あふれる王宮内の風景とのギャップに驚かされました。
そのあとは仁寺洞(インサドン)という、ギャラリーやお土産屋さんなどが並ぶ通りを歩き、ホットクを食べました。
(以降、食レポが続きます)
ホットクは韓国屋台の定番メニューのひとつで、揚げパンのような甘い食べ物です。注文するとその場で揚げたばかりのホットクを厚紙に挟んで手渡されます。生地の中には熱々の砂糖のような、餡のようなものが入っており、口の中をやけどしないように気を付けながら食べます。
ソルロンタン。牛肉を煮込んで作るスープで、出された時点ではほとんど味がしません。塩や胡椒で好みの味に調整しながら頂きます。底の方に白飯が入っていて見た目以上にボリュームがあります。
ソウルNo.1の繁華街・明洞(ミョンドン)へ移動。
明洞の屋台でオデンを食べました。長い串に刺した練り物を出汁につけた食べ物で、味は日本のおでんに近いです。この出汁が、日本のおでんより風味豊かな感じでした。
美味しい。
更に22時過ぎ、こんどは東大門近くの広蔵(カンジャン)市場へ。
遅い時間に行ったものの、明かりの灯る屋台はお客さんで賑わっていました。
見たことのない食べ物もたくさんありました。
ここでビンデトック(緑豆チヂミ)を頂きました。外側はパリパリ、中はふわっとしていて、味付けもそんなに辛くなく、最高でした。
最後、ホテル近くのお店でお鍋。カムジャタンという料理です。骨付きの豚肉がゴロッと入っていてぎょっとしましたが、お肉は意外と柔らかくて食べやすかったです。この日はときおり小雨が降るような肌寒い一日だったので、ようやく身体が温まりホッとしました。
(食レポ終わり)
話を映画祭に戻します。あっという間に最終日、閉会式の日です。
閉会式がはじまるのを待つ間、会場となっている韓国漫画博物館内の展示を見てまわりました。
こちらは映画祭の特別展示「HAND & SENSIBILITY」の様子です。日中韓から若手の三名の女性監督、久野遥子さん、朱彦潼さん、キム・イェオンさんの作品上映とそれにまつわる原画や絵コンテなどが展示されていました。
一般のお客さんも熱心に鑑賞されていました。
韓国の漫画の歴史を紹介する展示(常設)もありました。韓国の漫画は全く読んだことがなかったので、少しでもその歴史を垣間見ることができて興味深かったです。
いよいよ閉会式です。さっそく受賞作品の発表がはじまります。
ひとつひとつ、賞の名前を紹介した後、作品と監督名が読み上げられます。ここでなんと、となりに座っていた小川さんの作品『I Wanna Be Your Friend』が学生部門の観客賞を受賞しました!おめでとうございます!
その後も次々に賞が発表され、短編の一般部門はSarah Saidan監督(フランス)『Beach Flags』、学生部門はYeo Eun-a監督(韓国)『Cocoon』がそれぞれグランプリに輝きました。また日本からは、長編グランプリを原恵一監督『百日草~Miss HOKUSAI~』、観客賞を鍋島修総監督・長沼範裕監督『劇場版 弱虫ペダル』、学生部門審査員賞を冠木佐和子監督『おかあさんにないしょ』が受賞されました。みなさんおめでとうございます!受賞したのがどれも好きな作品ばかりだったので、個人的にとても満足した結果でした。
特に学生グランプリの『Cocoon』は、ホラー系全般が大の苦手な私にとってトラウマを残すほどの衝撃作品で、あまりの怖さに最初はほとんどスクリーンを直視できなかったのですが、耳に残っていたサウンドが素晴らしく、後になって「もう一度、今度は映像もちゃんと全部見たい!」と二回目の上映に足を運んだくらい思い入れのある作品だったので、とても嬉しかったです。
同じく学生部門でBIAF特別賞のXiang Yao監督(イギリス)『Fish Is What I Desire』は、独特の作画と世界観がクセになる作品でした。他にも素敵な作品がたくさんあり、それぞれの監督に直接感想を伝えることが出来て本当に良かったです。
閉会式後に記念撮影。左から、フォーラムに参加するため途中で合流した藝大の岡本美津子教授、短編部門審査員の朱彦潼さん、スペシャルトーク出演や日本語通訳の仕事で大忙しだったキム・イェオンさん。
ここで個人的BIAFお気に入り作品を2つ紹介します。
1. Roh Young-mee監督(韓国)『Ah Ah Ah』
過去の偉人の格言をそのまま引用したセリフと、人形の造形が印象的でした。
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3. Izabela Plucinska監督(ドイツ/カナダ/ポーランド)『Sexy Laundry』
中年夫婦のたるんだ肉体がクレイでよく表現されており、作品中盤で披露される男のダンスシーンが強烈でした。
閉会式後はクロージングパーティーがありました。会期中に仲良くなった監督同士で談笑する姿が多くありました。
これで映画祭は閉幕しましたが、韓国最後の夜はまだまだ終わりません!クロージングパーティー後、いろいろ発散し足りない監督や審査員たち総勢20名ほどで、会場近くのカラオケへ。
国籍も世代もバラバラの人達が集まったので、必然的にQUEENやビートルズ、ABBA、Aqua、ビージーズなどの「誰でも一度は聞いたことがある、あの曲」が歌う曲のラインナップに。私もマイケル・ジャクソンやザ・ナックの曲を歌いました。大盛り上がりで楽しかったです。缶ビールがものすごい勢いで消費されていきました。
そしてカラオケ後、もう深夜2時近かったと思うのですが、近くの居酒屋で更に2時間ほど雑談しながらゆるゆると飲みました。
最後は4時過ぎにホテルの前でお別れ。これでようやく「終わったんだな…」と実感が湧いてきました。短い期間でしたが、たくさんの素晴らしい監督や作品と出会うことができて、とても良い経験になりました。このあと休む間もなく大急ぎで荷造りをして、映画祭スタッフの方が運転する車で空港へ向かい、無事に日本へと帰国しました。
これにてBIAF2015のレポートもおしまいです。超個人的な視点からのレポートとなってしまいましたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。韓国は環境が日本と似ていますし、時差もないので、日本人にとっては様々な面で参加しやすい映画祭ではないかと思います。また、映画祭スタッフの中に日本語を話せる方が結構いらっしゃるというのも心強いです。国際アニメーション映画祭として新たなスタートを切ったBIAFに、来年以降も参加できるよう、まずは現在制作中の修了作品をしっかり頑張りたいと思います!
…そんな私と小川さんの所属する東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻、来年の3月に修了制作展を開催いたします!
東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻 第7期修了制作展
「GEIDAI ANIMATION 07YELL」
横浜会場:2016/3/5(土)~3/7(月)東京藝術大学横浜校地馬車道校舎
東京会場:2016/3/12(土)~3/18(金)ユーロスペース
HP|http://animation.geidai.ac.jp/07yell/
Twiiter|@geidai_07_yell
Facebook|https://www.facebook.com/geidai07yell
どうぞよろしくお願いいたします!
最後になりましたが本レポートを書くにあたり、写真を撮るのが致命的に下手な私に代わって素敵な写真をたくさん提供してくださった村上寛光さん、誠にありがとうございました。
第17回ブチョン国際アニメーションフェスティバル
The 17th Bucheon International Animation Film Festival(BIAF2015)
http://www.biaf.or.kr/2015/intro_new.php
木下絵李
http://erikinoshita.com/
BIAF2015学生部門入選作品『はるのかぜ』トレイラー