はじめまして、佐藤美代(さとうみよ)と申します。
主にペイント・オン・グラスや砂絵のアニメーションなどを制作しています。
今回は、東京藝術大学大学院の修了制作である私の作品『きつね憑き』が第12回ANIMATEKA国際アニメーション映画祭にノミネートされ、映画祭が開催されたスロベニアに行って来たので、そこでの体験談を書きたいと思います!
第12回ANIMATEKA国際アニメーション映画祭(以後ANIMATEKA)は、スロベニアの首都リュブリャナで2015年12月7日(月)から13日(日)まで開催されました。
ここで多くの方が「スロベニアってどこ?チェコの隣の?」と、スロバキアと間違えるのです。
私自身も行くまでスロベニアの場所を知りませんでした。スロベニアは中央ヨーロッパで、西にはイタリア、北はオーストリア、南や南東はクロアチア、北東でハンガリーとそれぞれ国境を接している国です。
そんなスロベニアで開催されるANIMATEKAは、今年で12回目となるアニメーションフェスティバルです。
コンペティション部門は「東・中央ヨーロッパ作品コンペティション」「ヨーロッパ学生作品コンペティション」「Elephantプログラム(子どものための作品)コンペティション」と3つにわかれています。
今回私の作品は、Elephantプログラムコンペに入っています。
画像:『きつね憑き』より
コンペ以外の上映プログラムでは、ベスト・オブ・ザ・ワールド、審査員作品プログラム、他映画祭からのセレクション上映、長編アニメーション上映など、毎日朝10時から深夜24時近くまで様々なプログラムがあります。
他の日本作品としては、水江未来さん、小谷野萌さん、水尻自子さん、岩崎宏俊さん、木下絵李さん、の作品も上映されていました。
リュブリャナの街中、いたるところに貼ってあるANIMATEKAのポスター。
上映会場はKinodvorとKinoteka、2つの映画館。Kinodvorがメイン会場でKinotekaはサブ会場です。2つの会場間は徒歩5分くらい。観たいプログラムやイベントによって、ここを行ったり来たりします。
Kinodvorのシアターは、小さなオペラハウスのような造りでとってもかわいい!
2会場ともカフェが併設されていて、上映を待っている時はそこでドリンクを飲んだり、おしゃべりしたり、ドリンクを頼まなくても座っていられるのでとても便利でした。
Kinodvorには映画に関する書籍やDVDの販売スペースもありました。
Kinodvor内の様子
まず会場到着後に渡されたものには、映画祭カタログ、パンフレット、ゲストパス、会場付近の地図、食券(映画祭と提携しているレストラン・ファストフード店で使える)、グッズなどがありました。カタログは全ての作品情報が載っているのでずっしりしております。
そしてこの、グッズにも使用されている映画祭の今年のメインビジュアルは、東・中央ヨーロッパ作品コンペの審査員でもあるオランダのアニメーション監督Rostoさんによるもの。インパクトのあるビジュアル!
Kinodvorのカフェにはこのモチーフの大きなパネルも飾られていました。
ANIMATEKA初日の夜、開会式とオープニング上映がありました。
フェスティバル・ディレクターのIgor Prasselさん(イゴールさん)のトークで始まり、Rostoさんの作品『The Monster of Nix 』と、3Dアニメーション作品上映、そしてノーマン・マクラレン監督作品を3Dで観るという内容。
『The Monster of Nix』は実写と3DCGをミックスしたアニメーション作品で、一度見たら忘れないRostoさんの作品世界を存分に感じるブラックファンタジーでした。会場内に同作品のメイキングが展示してあり、見ることができました。
どうやら着ぐるみに入った人の演技を撮影したものに、背景やキャラクターの顔など合成している作っている・・・!?ということがわかりました。
声のキャスティングが独特で、テリー・ギリアムやトム・ウェイツ、The Residentsなどが出演していて迫力のある演技でした。
ノーマ・ンマクラレン監督作品の3D上映も素晴らしく、動く線に本当に触れられるようでした。
その後のパーティー。会場のカフェにものすごい人が集まるので、もみくちゃです!
映画祭の公式動画でオープニングの様子が少し見られるようです。
この時点でやっと「本当にヨーロッパの映画祭に来たんだなあ」と実感がわきました。私にとって初めてのヨーロッパの映画祭参加でしたが、この映画祭の待遇はとてもよく、フェスティバル・ディレクターのイゴールさんだけでなく、若いスタッフのみなさんが一生懸命動いていてあたたかい映画祭でした。
イゴールさんは2会場を行ったり来たりして色んなイベントに立ち合っては、スロベニア語、英語、フランス語など多言語を駆使してしゃべっていました。そしてとってもいい人でした。初対面でしたが、私が日本から一人で来ていることを気にかけてくださり、色々親切にしてくださいました。
イゴールさんと、お世話になったスタッフのMajaさん。
期間中、空いた時間にリュブリャナの街をあっちこっち歩きました。
リュブリャナは、東京に比べると人口密度が低めで、落ち着いた街という印象でした。
しかし映画祭会場から少し歩いたところにある広場や旧市街の方に行くと、観光客もたくさん。
スロベニアの民芸
市場
路上音楽
クリスマスシーズンなので街のいたるところにサンタやツリーが。
夜はイルミネーションや店のディスプレイがとても綺麗でした。
いたるところにゴミ箱が設置されているからか、リュブリャナはゴミがあまり落ちていない、きれいな街でした。
そして街でよく見かけたもので印象に残っているのは、ビルの壁面などに描かれたグラフィティです。
リュブリャナ市内観光ツアーに見学コースが含まれているくらいグラフィティが多い街だそうで、本当にあらゆるところで見かけました。
あちこちに見かけるので街の人たちも見慣れているのでしょうか。電車の側面にも大胆に!
けれど、治安が悪いというイメージはあまりなく、むしろ穏やかで安全なほうだったと思います。
グラフィティについては、後日すごい場所を見つけましたがそれについてはまた後で書こうと思います。
さて、映画祭2日目のコンペ作品上映のスタートはElephantプログラム1からです。
Elephantプログラムの上映は会期中毎朝10時からありました。そして、お客さんはほとんどが子どもたち!午前中はいつも幼稚園~小学校中学年くらいの子どもだちが大勢観に来ていました。
上映を待っている間も上映中も、とても賑やかでした。
司会の女性が子どもたちに向かって話すのですが、全10作品ほどのプログラムを全て通して観るのではなく、1、2作品ごとに作品の紹介をしたり、観た直後に感想・質問を聞いたりしていました。(全てスロベニア語で、何を言っているのかはわかりませんでしたが)元気よく答える子どもたちがまた可愛かった!
Elephantプログラムは個人的に好きな作品が多く、作品を観ながら子どもの反応を観たりするのも、本当にいろいろと勉強になりました。子どもたちと一緒に観ていると、ちゃんと子どもたちが作品に入り込めているか、置いてけぼりになっていないか、などもハッキリわかります。
絵柄だけでは本当にその作品が子どもに受け入れられるかどうかわからず、お話としての完成度が高い作品や、時にはありえないくらい突飛な発想のものなど、いい作品には子どもはちゃんと反応を示すので、その反応を楽しみながら私自身もいろいろ勉強させてもらいました。
Elephantプログラムのコンペは全部で4プログラム(33作品)ありましたが、プログラム1と2は小学校低学年向けセレクション、3と4は高学年向けセレクションだったようです。
私の作品はプログラム3だったので、大きめの子どもたちがお客さんです。木下絵李さんの作品も同じプログラムでした。
上映後のトークは、司会の方と私、通訳をしてくださったニーナさん3人で前に立ち、子どもたちからの質問や感想に答えるという内容。
緊張の面持ち。
子どもたちからの質問は、「どうやって作ったのか」「何枚くらい撮影したか」「これまでの制作本数」などでした。
手を挙げて作品の感想を伝えてくれる子もいました。
つたない英語での回答だったため伝わるか心配だったし緊張したので、終わると使命を果たした気分で一安心しました。
ニーナさん、私、司会者。
会場では作家のDVDや漫画、パラパラ漫画、原画などが購入できます。
おもしろそうな漫画がたくさん。
公式Tシャツ
期間中、アニメーション関連の展示やイベントも開催されます。
★Meet the Filmmakers
東・中央ヨーロッパ作品コンペや学生作品コンペの監督たちがイゴールさん等にインタビューを受けます。一人一人じっくりトークしていました。そしてここでやっと作品と作者が一致したりします。
★Open Platform
ほぼ毎日開催される、様々なゲスト(他の映画祭のディレクターや審査員)を迎えてのトークイベント。Kinodvorのカフェ内にて。
★アーティストの展示
「Dow JonesⅡ」Han Hoogerbrugge
オランダ人アーティストHan Hoogerbruggeのインスタレーション。
「Zippy Zappy,exhibition of artwork for animation」invida
スロベニアの子ども向けテレビアニメーションシリーズの展示。
「A World Where Anything Is Possible」Miha Knific
スロベニアのアーティストMiha Knificさんの人形・立体造形の展示。
「Mind My Gap - So Far so Evil」Rosto
Rostoさんの展示は、美術館内を使っての個展でした。これまたすごい展示でした。
記念撮影。
立っている人がたまに展示物だったりしました。
他にもいろいろなイベントが開催されていました。
中盤少し体調を崩してしまったりで行けませんでしたが、スロベニアのエレクトロ系バンドのライブやカラオケパーティーもありました。
Miha Knificさんの展示会場のSCCA(Center for Contemporary Arts Ljubljana)というアートセンターに行った時、グラフィティのメッカの様な場所を見つけました。
とにかく建物も装飾も、スゴイ・・・としか言いようがない。
言葉にならない興奮、そして恐怖も感じつつ、建物を撮りながら歩きました。
あとで調べてみたら、ここは「メテルコバ (Metelkova)」という7つの建物で構成された町だということでした。それらの建物は、旧ユーゴスラビア人民軍の元の兵舎があった場所に建つ自主的な文化センターで、1980年代から多くの知識人や芸術家、活動家が集まり、現在でも自分の工作、楽器の練習など活躍のための場所が見つけられない人等にとってのよりどころになっているそうです。なお、現在はライブハウスやクラブ、アトリエ、美術館、ゲイバー、レズビアンバー、無政府主義者のセンター、ホステルなど様々な施設が入っているそうです。
ひとりで建物に入って行くのは流石に恐怖でしたが、リュブリャナにもこんなディープな地域があるんだなあと印象に残った場所でした。
建物をぐるりと回って歩いていたら、なんだか異臭がしたので少しこわくなって足早に去りました。
スロベニアでの食事です。
初めて入ったレストランで、店員さんの早口英語から「きのこ」「スープ」という単語しか聴き取れず、「はい、それで」と言ったところ、ほとんど同じスープが2つ出てきてしまいました。
次の日、郷土料理を求めて違う店へ。
ただステーキがはさまっただけのパン。これがまた、大きい・・・。キャベツはとてもすっぱい味付け。
スロベニア名物のクレムシュニテ(クリームケーキ)。これはとても美味しかった!
今回は7日間の滞在、せっかくなので少し足を延ばしてみます。
リュブリャナからバスで約1時間のところにあるヨーロッパ最古の観光鍾乳洞としても有名なポストイナ鍾乳洞に行きました。
トロッコで洞穴に入っていき、帰りは歩いて下っていく1時間半くらいの見学。鍾乳洞は5万年以上前からあるそうで、自然が産み出したまさに異界でした。
スロベニア観光にはかなりオススメの場所です!
そしてリュブリャナから電車で2時間半くらいでクロアチアのザグレブにも行けました。ザグレブもリュブリャナ同様、街がクリスマスモードになっていました。
約半日で隣の国に遊びに行って帰れちゃうのは、ちょっと羨ましいです。
ここで、ANIMATEKAで観た中で個人的に印象に残った作品を紹介します。
『Tigers tied up in one rope』Benoît Chief(フランス)
韓国の民話の絵本をベースに作られたフランスの作品。まず民話自体がとってもおもしろい。和紙に描いたような絵のタッチも良くて、大好きな作品。
この作品の監督のBenoît Chieuxさんとは以前韓国のSICAFで会ってお話ししたのですが、その時はこの作品が観られなかったのでずっと気になっていた作品でした。またご本人にお会いできたら、感想を伝えたい!
『Signum』Witold Giersz(ポーランド)
洞窟画のアニメーション。ごつごつした岩の上でアニメートしている‥?とんでもないものを観てしまったような忘れられない作品でした。一体どうやって作っているのか、、とにかく強い印象を残す作品でした。
『House of unconsciousness』Priit Tender(エストニア)
エストニアの作品はコンペに結構ありましたが、その中でもPriit Tender監督の作品が一番印象に残っています。悪夢のようで享楽のような未知なるアニメーションの世界。
--
映画祭最終日の前夜、21時半からクロージングセレモニー。
受賞作が発表されるだけに、会場は満員です。
イゴールさん司会のスロベニア語、英語通訳の2ヶ国語で進行。
まずはElephantプログラムコンペのグランプリ発表からです。
こども審査員の登場。そうです、Elephantプログラムコンペの審査をするのは、子どもの審査員なんです。
ちなみに、ヨーロッパ学生コンペの審査員をするのはスロベニアの大学の学生さん。東・中央ヨーロッパ作品コンペの審査員は、映画祭の特別ゲスト審査員です。
代表して話すLovro Smrekar君。
グランプリ発表と思いきや・・・その前に、受賞ではありませんがスペシャルメンションとして2作品をコメント。NFBの作品『No Fish Where to Go』と共に、なんと私の作品『きつね憑き』をあげてくれました。
最初、スロベニア語だったので自分の作品名が呼ばれて「もしや?」と思っていたら、その後の英語通訳でわかりました。スペシャルメンションの意味がよくわからなくてしばらく「?」な状態が続きましたが、わかった時はとても嬉しかったです。
そして、グランプリ作品はDina Velikovskaja監督『About a Mother』(ロシア)でした!
Dinaさんの作品は白黒のシンプルなラインで描かれ、ストーリーがとてもユニークで心あたたまる部分もあり、それにマッチした自由度のあるアニメートが素敵でした。とっても好きな作品です。
“ABOUT A MOTHER” by Dina Velikovskaja
東・中央ヨーロッパ作品コンペティションのグランプリの発表は特別審査員から。グランプリはWojciech Sobczyk監督『Summer 2014』(ポーランド)の作品でした!
監督は来ていなかったので、ビデオレターを上映していました。(賞状は代理の方へ)
左から、東・中央ヨーロッパ作品コンペの審査員のJEAN-LUC SLOCKさん、ROSTOさん、ROBERT MORGANさん、ANET TER HORST さん、JULIE ROYさん。
Elephantプログラム審査員のLovro Smrekar君と。
彼はアヌシー国際アニメーション映画祭でも子ども審査員をしていたそうです。自分で描いたエッセイや漫画の出版もしているようで、お互いDVDと本を交換しました。紳士的で大人っぽかった!
そんなこんなで授賞式も終了しました。
しかし、授賞式後も作品上映は次の日まであったので、最終日はフランスのプロダクションFolimage製作の『snow』を観て今年のANIMATEKAを見納めました。
ここまで書いてきましたが、ANIMATEKAの様子、少しは伝わったでしょうか?
ANIMATEKAはヨーロッパ作品が多いだけに西洋人だらけでしたが、日本人が一切いない中でそれはまたそれでかなり刺激的な映画祭でした。
リュブリャナはとても穏やかな街だし映画祭はもちろん、観光にもよい街だと思うので、オススメです!
animation tapesの林緑子さんには、スロベニア体験記・アドバイスからいろいろ参考にさせていただきました。ありがとうございます!
最後に、近日中の告知をして終わりたいと思います!
【参加展覧会】
「ものがたりという宝石:日本とインドの写真+映像+アニメーション」
12月23日(水)-28日(月) | 10.00 AM - 6.00 PM
横浜市民ギャラリー 地下1階ギャラリー
入場料無料 | 12月28日(月)は4.00PMまでご入場頂けます
公式サイト:
http://talesandfables.nid.edu/index.html
【参加上映会】
「日中韓学生アニメーションフェスティバル2015」
12月26日(土)-27日(日)
金沢21世紀美術館 シアター21
入場無料 事前申込制
公式サイト:
http://animation.geidai.ac.jp/jcksaf/
Photos by Katja Goljat, Andrej Firm
第12回ANIMATEKA国際アニメーション映画祭
12th International Animated Film Festival Animateka 2015
http://www.animateka.si/2015/en/home.html
佐藤美代
http://satomiyo.com/