ぬQさん(絵画・まんが・アニメーション作家による新作、チャットモンチー「こころとあたま」MVが公開されました。

迷いながらも揺ぎない前進への決意を感じさせるスピード感溢れる楽曲と、現在・未来・過去全てが融合したようなぬQさんによるアニメーション映像で、まるで夜の街を泣きながら疾走しているような錯覚に陥ってしまいます。

平成26年度メディア芸術クリエイター育成支援事業に採択され、新作『サイシュ~ワ』(企画名)制作中であることを公表していたぬQさん。今回のMV公開には意表を突かれた方も多かったのではないでしょうか。今回は、そんなぬQさんに『こころとあたまMV』について、お話を伺いました。

まずは本作、チャットモンチー「こころとあたま」MV(Short Ver.をご覧ください!

―― 本作『こころとあたまMV』のテーマを教えてください。

ぬQ: 楽曲「こころとあたま」は、心で感じたことと、頭で考えた理屈が矛盾せず一致することを理想とした歌だと解釈しました。曲内ではこころとあたまに二分されていますが、同じ人間でも昨日と今日のこころが違うこともありますし、私の気持ちと理屈は一致しているのに、他人のそれらと矛盾してしまうことがあります。ですので、アニメーション内で、キャラクター、物体、時系列、表現方法に負荷をかけて分裂させ、バラバラになったものが形をかえながら、一つになることを目指し、重なり合ったり、また分裂したりするような構成にしました。

―― 音楽の解釈を独自になさったんですね。チャットモンチーさんからはご要望などありましたか?

ぬQ: チャットモンチーは常に新しいサウンドを探求しているバンドなので、ファンも新しいものを受け入れる土壌があるので、自由に解釈し、自由に表現して良いとのことでした。

―― 制作中にぬQさんご自身が体験されたことをその都度作品に還元していかれたそうですが、その内容は本作に於けるかなり重要なエピソードばかりですよね。つまり最初はほぼ何も決まっていない状態で作り始めたのでしょうか?

ぬQ: 内容、構成、脚本、キャラクター数(新体制チャットモンチーが4名なので、作品内でも4名)を決め、ビジュアル(キャラクターデザイン、ロケーション)のみ制作期間中に起こる未来に期待して未設定にしました。
制作にあたりいくつかPVを見て、
・良いけれど、後半が概ね予測できる映像
・良いけれど、意味不明でついていけない、または後半も同じように意味不明だと予測できる映像
があると思いました。前者は、コースとボールとボールの速度が決定しているから、ゴールの様子が思い描ける。後者はルールが無いので途中で見る方が脱落するか、ルールが無い未来を見抜かれてしまう。決め過ぎも決めなさすぎもよくないのではと思い、しっかりと練っているところ(構成など)と、行き当たりばったりで遭遇したもの(ビジュアル)を混ぜ入れることを決意しました。

画像:おいしかったチキンと真夜中に見た工事現場のおじさんを合成したキャラ

―― 具体的な背景のダウンサンプルデザインがまた絶妙な空気感で素敵ですが、今回の舞台設定を教えてください。

ぬQ: 内容が観念的で、キャラクターがペラペラしている為、対照的に背景は写実的に描き画面を補強しています。舞台は『ニュ~東京音頭と同様、私のお気に入りの場所です。私は駅近が好きなので、今回は、京都駅高架下周辺、二子玉川駅周辺、渋谷駅周辺をモデルにしました。

―― 実写素材が混ざる手法はどのような意図で?

ぬQ: 前作ニュ〜東京音頭はほぼ処女作だったこともありますが、5分間の映像に対して2年もかかってしまいました。今回、いくつかの他の仕事を平行しながら、3ヶ月程度で3分半完成させなければならず、良いものどころかそもそも完成まで漕ぎ着けるかどうかが最も大きな不安要素でした。アニメーションでは私が描かなければ世界は無いのですが、カメラをまわせば世界がうつることから、実写を取り入れる事を考えました。実写映像でも、私の絵が中に入っていれば統一感があると思い、彫刻家の近藤南さんに依頼しイラストレーションを立体化、日芸の映像作家の松岡ジョセフ君に撮影を依頼しました。ちなみに松岡ジョセフ君は宇宙も制作してくれました。

以下は私の描いた精度の低すぎる図面をもとに生み出された精度の高いフィギュアです。


作:近藤南


ぬQ: 生のフルーツを筆頭に色んなものが回転しているキラキラしたやばい宇宙を作ってとオーダー。チキンは松岡くんのアイディアです。

作:松岡ジョセフ

画像: 「没シーン」 - 心が抜けきって、もう愛も何もないふたこ。一郎はふたこの為に頑張っていたけれども、恨まれているし、もう放置してもいいかなと思い始め、「ふたこの為頑張る一郎」と「ふたこを見捨て一郎」に分裂しようとしていた。この一連は収まりきらないので没になった。


―― 今回の制作手法を教えてください。

ぬQ: MacBook AirAdobe Photoshopをいれ、Intuos pen & touch タブレットを繋ぎ、動画を鉛筆ツールで描いています。作画枚数は約2000枚程度です。背景画は撮影したものを元にアシスタントさんに下地を描いてもらい、私が色調整、加筆修正などを加え、アニメーション用に仕上げて使用しています。編集はAdobe Premiereです。
私の作風は、簡単な絵を大量生産してよく動かすことが特徴で、多大な時間を費やす為(数百時間)、予算、尺、制作期間、内容、などが全て合致していないとどうしても受けきれず、依頼があっても泣く泣く断り続けていました。受けても数十秒程度の短いものが限界でした。今回全ての条件が揃い(用意していただき)、全力で取り組むことができました。

―― 最後に、tampen.jp読者のみなさんにメッセージをお願いします。

ぬQ: この映像は、仕事で受けたけれど、私の大切な作品でもあります。私の2014年の一本はこれです。それくらい一生懸命取り組みました。なので5千回見て下さい。

ぬQさん、どうもありがとうございました!なお、キャラクター設定やテーマの詳細な説明・制作の様子などをぬQさん自らが解説したページがありますので、そちらもぜひご覧ください(下記)。主人公2人には、ちゃんとフルネームもあるんですよ。漫画家でもあるぬQさんならではの細かい設定により濃厚な背景が浮かび上がってきて、このMVを何倍も楽しむことができます。気付いたら5千回見ちゃってるかも!


『こころとあたまMVストーリー

ジュースの飲み過ぎで、頭から体が押し出されてしまった少女ふたこ。体は心と繋がっていて、一目散に逃げてしまった。ふたこは、心を失ったあたまだけの存在になってしまったのだ。一郎はあたまを慰めながら、心を追いかけようと奮闘する。こんな時、「自転車」さえあれば…。「自転車」とは流星のような早さで、惑星のようにくるくると自転する幻の乗り物。しかし「自転車」は乱獲による乱獲、撤去につぐ撤去により、とうの昔に絶滅していた…。逃げる心は矢に、あたまにあいた穴はブラックホールに、傘はルーレットに、桃はハートに、全てが形をかえながら、希望に向かって進む物語。

ぬQによる解説ページ
http://homepage3.nifty.com/nuQ/kokorotoatama.html


ぬQ
http://homepage3.nifty.com/nuQ/

チャットモンチー: CHATMONCHY
http://www.chatmonchy.com/


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