はじめまして。アニメーションを作っている小谷野萌(こやの・もえ)と申します。わたしは今、デンマークのヴィボー(Viborg)という街で新しい作品を制作しています。制作期間は一年間。
この記事では、わたしの滞在しているThe Animation Workshop (通称TAW)のOpen Workshopでの様子をご紹介したいと思います。
3月初旬。初の一人海外、恐怖の飛行機乗り換えを経て、命からがらデンマークにたどり着きました。空港から(機内でたまたま隣席だったおじさんの)車でオールボー駅へ。一時間半くらい電車に揺られ、ヴィボーに到着です。道中、車窓から見えた風景はどこまでも緩やかに平べったく、牛や馬が草をはんでいる様子がかわいらしかったです。「デンマークはすごく平らだ~」というのが最初の印象でした。
平らなデンマーク
親切なスペインおじさんとその奥さんの車で駅まで送ってもらう図
ヴィボーは、デンマーク・ユトランド半島の内陸部にあるとても穏やかな田舎町です。滞在先にほどちかいふたつの湖はとてもきれいです。
小さい湖と大きい湖があります。これは小さいほうの湖
ダウンタウンの様子
列車風の車は立川の昭和記念公園にあるやつみたいにこれでヴィボー市内を観光できる
そしてこちらがThe Animation Workshop。
VIA Universityという大学 のアートコースです。
The Animation Workshopの建物
ドローイングアカデミーや、三年制のアニメーションスクール、短期間で3DCGを学ぶプロコースなどのクラスが内在していますが、その中で私のいるOpen Workshopはとてもユニークなシステムです。
OPEN WORKSHOPのドア
Open Workshopではヨーロッパをはじめとする各国からいろいろな人が集まり、それぞれのプロジェクトを進めています。わたしのように個人でアニメーション作品を作っている人もいれば、グループでの映像制作、ゲーム、絵本、そしてポートフォリオをつくるためにこの制度を使用する人もいます。(アニメーションスクールを卒業し、そのままそれらをポートフォリオにまとめるためにOpen Workshopへ…なんていう人も。なるほど便利。)
Open Workshopには公式サイトから応募申請することができ、企画が通ると制作環境と住まいが与えられます。わたしの場合は一年間の制作期間を頂きましたが、半年や3ヶ月など人によって滞在期間も異なります。隣の席だったハンガリー出身の友人も先月故郷に帰ってしまいました。お気付きのとおり、このように人が出入りしているので、デンマークにいながらみんな英語で会話します。
ここで、施設の中をご紹介します。
作業デスク
ここが作業デスク。現在、手描きのアニメーションを作る人はわたしだけです。周りの人はみな3DCGソフトのMAYAやTV Paintを使用しています。(「TV Paintをつかいはじめて人生が変わった!」とみな口々に言うので、遅ればれながらわたしも友人にソフトの使い方を教えてもらいました。確かに使いやすい!そしてどんどん描けるので楽しい。今後の制作に取り入れたいソフトです。)さて、みんなの作業スペースに必ずあるこのデスクですが、わたしの地味なびっくりポイントはこのスイッチです。
デスクに装備された謎のスイッチ
立って作業してみる
このスイッチで机の高さが調節できるようになっています。最初は「その機能いるか?」と不思議に思っていたのですが、数日後デンマークの友人が立って作業しているのを見かけ衝撃をうけました。彼曰く、「(立っていると)なにかが違う」。ほかの国から来ている友人も「座っているほうが疲れる」といってこの「立ち作業」を推奨していたので、こちらでは当たり前のことのようです。(ほんとうにそうか~?)
ストップモーションのドキュメンタリーアニメーションを作っているベルギー出身の友人。彼女のスタジオを少し覗かせてもらいました。
プロっぽさを醸す友人
暗幕の向こう。セットを組んで撮影しているのは現在、彼女一人だけ
ここは作品の音楽などを録音、編集出来るサウンドスタジオ。
サウンドスタジオ
わたしのびっくりポイントはこの、数種類の足音が録音出来る秘密の床です。
秘密の床
秘密の床(バリエーション豊富)
学校内にマスターとジンジャーという二匹の犬がいます。学校と公道がつながっているため、敷地内でよく犬を見かけます。カモもしょっちゅう遊びに来ます。深夜になると大きなふわふわのウサギがいるという目撃情報もあります。下の写真は昼間みかけたウサギですが、友人に写真を見せたところ「これはウサギではない」と言われてしまいました。
上目遣いのマスター
なにか
建物の2階には、コンピューターやネットワークを管理しているテクガイ達の部屋や図書館のように、本やDVDを借りることのできる部屋もあります。最新の映画も揃っているので驚きです。
DVDの貸し出し
こちらは共有のキッチン。みんなここで自炊してリビングで食事をとります。食事時になるとヨーロッパ各国の料理の様子が垣間見え、すこしわくわくします。そしていつもだれかが、ピアノやギターを弾いています。
共有のキッチン
Open Workshopとハウジング
貸していただいているお部屋
わたしのデスクがある建物のすぐ近くにOpen Workshop専用の寮があります。グラウンドを横切ってすぐ、部屋まで一分足らず。わたしはデンマークに来る以前、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻というところに在籍していました。夜遅くまで制作できる点や、2Dや3D、ストップモーションなどさまざまな表現手段をもつ人が集まっている点が、この環境と似ています。その時とちがって住む場所があるのはとてもありがたいことです。
アーセナル
こちらは制作会社が集まっているアーセナルという建物。学校やOWを経てここで会社を立ち上げる人々もいます。たまに学生をアルバイトとして雇うこともあるようです。余談ですが、数年前、韓国芸術総合学校K-ART ’S(http://eng.karts.ac.kr:8090/)にお邪魔したときも、卒業生が学校の施設を使って仕事をしており、在学生がそのお手伝いをしていました。このように会社、学生間を始め、同じ敷地内に複数の組織があるため、それらを自由に行き来できるのは双方にとってとてもよい環境だと思います。わたしもここに来て最初にAnimaticという作品の流れをまとめた映像を作ったのですが、コーディネーターを通してアーセナルのクリエイターに連絡を取ってもらい、「話は聞いている。○時にきみのデスクに行くから!」という感じで会う約束をして、作品のアドバイスをもらったりしました。その後も、隣接する学校の学生や、同じOpen Workshopの仲間に見せ、たくさんの人から意見を聞くことができました。
また、劇場や美術館など地域のアートにかかわる人々とスープを食べながら交流できる「スープキッチン」や、ゲストの講師を招いたトークイベント「TAW TALK」など日々学校主催のイベントが盛りだくさんです。最近の「TAW TALK」にはディズニー『ベイマックス』の監督、ドン・ホール氏がいらっしゃいました。(ちなみに前々回のゲストはロシアからいらっしゃったシャーマンでした。)
最後にTAWとはあんまり関係ないですが、こちらで知り合った友人の話を少し。
先述した湖の近くにKunsthal(http://viborgkunsthal.viborg.dk/)というコンテンポラリーアートの美術館があります。
ヴィボーの現代美術館Kunsthal(クンストヘル)
わたしがこちらに到着したのとちょうど同じ時期にアーティスト・イン・レジデンスで二名の作家が来ていました。わたしは現代美術にはあまり詳しくないのですが、彼らの作品はとても魅力的で、アニメーションとは違う分野の話を聴けるのはとても興味深かったです。また、そのうちの一人で日本から来ていた山口貴子さん(http://www.takakoyamaguchi.com/)がアニメーションやプロジェクションマッピングに興味をお持ちで、彼女のドローイングをアニメーションにしよう!ということになり、そのお手伝いをさせていただきました。
友人たちと
山口貴子さんのショートアニメーション『This one』(https://vimeo.com/126294946)
まさかヴィボーで現代美術とアニメーションの橋渡しをすることになるとは…。これは不思議で、とても楽しい経験になりました。彼らは二ヶ月の制作期間を経て、先日それぞれの国に帰ってしまいました。ちょっと淋しいですが、わたしの作品作りはまだこれからです。苦手な英会話や、人見知りなど克服しなければならないことは山ほどありますが、それも含めて楽しんでゆきたいと思います。ここまで読んでいただきありがとうございました。今回はこのへんで。では、また!
Hej hej!
小谷野 萌
http://koyanomoe.tumblr.com/
https://vimeo.com/moekoyano
The Animation Workshop
http://www.animwork.dk/en/