さて前回はコマ撮りに使うプレビュー装置とはどういうものかをざっと解説しました。
続きましては、この10年で私が実際に使ってきた機材の変遷をご紹介します。

大学の友人たちと共同で「ホーム」を完成させた翌年の2004年、そこで得た経験を元に個人で「テレビ」という作品を制作しました
これが撮影にプレビュー装置を導入した初めての作品です。

この時はデジタルカメラから出力した撮影画面のアナログビデオ出力をビデオコンバーター装置でIEEE1394に変換し、PCへ取り込んでいました。
ソフトウェアは当時CELSYSから発売されたばかりのCLAYTOWNを使っています

このCLAYTOWN、表向きは初心者や子供が対象の安価な入門ソフトなのですが、日本コマ撮り界の第一人者である伊藤有壱氏が監修されただけあって、プロ用途としても使い出のある大変良く出来たツールでした。
ずっとVer.2の登場を待望していたのですが未だに叶わず、残念に思います。

上記の画像はそうやって実際にCLAYTOWNへ入力したプレビュー映像のキャプチャ(右)と、それとは別にデジカメ内で撮影・記録された写真(左)を並べてみたものです。
少しわかりにくいかもしれませんが、作品本編で使用するのは左の写真のみで、右のプレビュー画像は通常は撮影後に捨ててしまいます。

この方式のメリットは、静止画用デジカメで撮る写真をそのまま使える事で、ランチボックスを使用してアナログビデオのフレームを直接キャプチャして本番用素材とする旧来主流の方式よりも断然高画質が得られる点です。
言わばCMや映画のように35mmフィルムを使う贅沢な現場で、フィルムカメラをデジカメに置き換えて小規模化したようなものとも考えられます。
デメリットは、ビデオ信号をデジタル→アナログ→デジタルと変換を重ねる必要があるためどうしてもプレビューの画像が不鮮明になり、撮影中に細かな部分が見えにくい点です。

さて話は変わりますが、この頃のデジカメ業界はとある新製品の登場で騒然としていました。
そう、キヤノンの初代EOS Kiss デジタル(2003年9月発売)です。

それまで画質は良いが非常に高価な製品しか無かったデジタル一眼レフカメラが、一気にレンズ込みで10万円台なかばという手の届く所に降りてきたのです。
その画質は私がそれまで撮影に使っていたデジカメとは別次元のクオリティでした。
私は早速このEOS Kiss デジタルを入手し、「コタツネコ」という作品を制作しました。

しかしEOS Kiss デジタルをコマ撮り用のカメラとして使用するには大きな障害がありました。
当時の一眼レフにはレンズを通して見える映像をリアルタイムで外部出力する仕組みが無く、普通のデジカメでは当たり前にできていたライブビューが不可能でした。
一眼レフの高画質は欲しい、しかしプレビュー装置に繋げないのではコマ撮りがままならない、困り果てた末に私が出した結論は…

こうでした。
一眼レフとは別に用意したビデオカメラをくっつけてファインダーを覗き、強引にライブビューを取得するという力技です。実に間抜けな光景ですね。
しかもこの方法には見た目以上の大きな弱点がありました。

ご覧の通り、ただでさえ見にくかったプレビュー画面がさらに暗く不鮮明になり、しかも視野の一部は欠けています。これではいかに一眼レフで撮る写真が綺麗とは言え、コマ撮りがやりにくくて仕方ありません。
しかし、作品を良くするためにはどんな手段でも使うのが作家というものです。私は不便極まりないこのシステムに耐えて、「コタツネコ」やその他いくつもの仕事を撮り続けたのでした。

プレビュー装置についての話は次回で最後です。
この後も撮影システムの進化が続きますのでお楽しみに。
それではまた!