10月18日、最後の手段の企画によるVJイベント「卵鳥と4次元エレベーター」が開催されました。

「最後の手段」は、有坂亜由夢さん、おいたまいさん、木幡連さんの3人から成る「人々の太古の記憶を呼び覚ますためのビデオチーム」(公式ホームページより)。様々なミュージシャンとMVを制作したり、テレビ番組コーナーを手がけたり、スイスやインドといった海外でもVJを行う等、幅広く活動されています。2013年には、制作を担当したやけのはら『RELAXIN'』のMVが、その年の文化庁メディア芸術祭にてエンターテイメント部門新人賞を受賞し、その活動が注目を集めています。

今回は、このVJイベント「卵鳥と4次元エレベーター」にお邪魔して、最後の手段のお三方に、映像制作やVJについて、特別にお話をお伺いしました。イベントレポートと共にお届けいたします。

このイベントは、アートプロジェクト『TRANS ARTS TOKYO』のプログラムのひとつとして開催されました。11月3日までの約一ヶ月間、神田地区の様々な会場で巨大アート作品の展示や、都会の真ん中でのキャンプ体験など多彩なプログラムが行われました。


VJイベントの会場は、マーチエキュート神田万世橋内のカフェ&和酒N3331。マーチエキュートは御茶ノ水駅と神田駅の間にかつてあったという万世橋駅をリノベーションして建てられたものです。N3331は駅のプラットホームだった場所に立っており、お店が中央線の線路に挟まれたとても不思議な空間になっています。

窓の外を中央線が走っています。

N3331には、スクリーンと機材、オリジナルの美術装飾が設置されて一夜限りのVJフロアに。

イベントがはじまるとフロアはお客さんでいっぱいになりました。お酒片手に、スクリーンいっぱいに映された最後の手段による映像と、DJ Obakeさん、WOODMANさんによる音楽にじっくり浸っている様子。映像は次々に移り変わり、アニメーションの気持ちよさ、動きのここちよさを感じるものでした。

お客さんでいっぱいのフロア。奥にはスクリーンが。


イベントの様子をおさめた動画はこちら

2時間に及ぶイベントの後、最後の手段のお三方にお話を伺いました。

(左から、木幡さん、おいたさん、有坂さん)

―― VJプレイお疲れさまでした!今日はどうでしたか?

おいたまい(以下おいた):今日は、はじめて自分たちで企画したイベントだったので、ミュージシャンの方を自分たちで呼んで、お客さんが来てくれなかったらどうしようとすごく心配でした。でも今日はみなさんいらっしゃってくださってほんとうに良かったです。結構雰囲気も良かったと思います。

―― 今日は、お客さんがフロアに座られてましたね。

おいた:わたしたちもびっくりしました。みんな座ってるー!って!

―― わーっというような、違う盛り上がりを期待されていましたか?

おいた:いや、そこはお好きに、という感じです。クラブでやるときも、踊っている人もいれば、ただ見ている人とか、ただ音楽を聴いている、ただその場に居るという人もいっぱい居るので、それは全然みなさん好きにしてくださいと思っています。盛り上がらなくてシーンとなってしまっているなら、やっててつらいと思いますけど、会場の空気で、みんなが何か感じてくれているというか、悪い雰囲気じゃないっていうのは、やってても感じるので。座っていたとしても、、、

木幡連(以下木幡):お行儀いいなと思う

おいた:そう、お行儀良いなと思うくらいで。踊ってくれても良かったけど、座ったままでもどうぞ。

木幡:それはそれで面白いよね。みんな普段仕事とかしてて、それから週末クラブでイエーー!!ってやるのもすごい疲れるからさ、こういうところで休んで見てるのも良いんじゃないかなと思う。

―― フロアの空気は毎回違うものなんですね。

おいた:違います。クラブでやる時も、本当にイエーーー!って盛り上がってる時もあれば、みんなが、寝てる…!という時もあります。つまらなくて寝てる、というよりも、幸せそうに寝てる…!みたいな時とかも稀にあります。

木幡:映像は誰も見てないね。

おいた:そうそうそう。でも、それはそれで面白いの。見てないけど、じわじわーっと、場の空気は作ってたもんね。

木幡:今日のこういう感じ(みんな座っている)は初めてだったけど、それはそれで良かった。

有坂亜由夢(以下有坂):今回はうちらが企画だから、映像がメイン、見せるVJ、という意識がこちらにはちょっとありました。いつもクラブでは、音が主役でVJはおまけみたいな感じがあるんですけども。でも今回はうちらが企画しているから、うちらが映像でその場を作るというか、映像メインで世界観を広げていくみたいな。そういう意識はありました。

―― イベントタイトル『卵鳥と四次元エレベーター』は、WOODMANさんと行ったセッションのタイトルだそうですが、その由来をおしえてください。

有坂:以前ウッドさん(WOODMANさん。以下ウッドさん)とセッションした際、ウッドさんが実況中継しながら演奏していて、ある音に対して「…卵鳥が鳴いている…また卵鳥が…」と、定期的に ピン ポーン…  ピン ポーン… ピンポーン… となる音には「四次元エレベーターが無限に上昇し続けている…」という感じで不思議な言葉をずっと喋っていて、とても印象的だったので、そこからタイトルに使わせていただきました。

―― DJ obakeさん、WOODMANさん、このお二方とも、これまでに共演されたことがあるんですね。

おいた:あります。今日みたいな感じで音楽と映像のセッションを。

木幡:今日の音楽は彼らが自分たちで作った音楽で、とてもやりがいがありました。

おいた:普段はDJの人と一緒にやることが多くて、それはそれですごく面白いのですが、彼らは、全部自作の音楽でやっているので、別の面白さがあるっていうか。本当にやりがいがあるよね。

木幡:うん。ぼくらも自分たちで作った素材でVJをしているから、なかなかかっこ良くはならなくて、へっぽこなところがかなりあるけど、お互いそれはアットホームな、手作りの良さが出てるんじゃないかなと思います。

―― 今日の素材は、過去作品からのものもありましたね。

おいた:過去作品から使ったり、VJ用に素材もいっぱい作ってあります。数で言えばVJ用の素材の方が多いです。そこに、過去作品のものも混ぜてるっていう感じです。

―― 他の方が作られた映像は使わない、というこだわりはありますか?

木幡:ぼくらのVJは、そうですね。できるだけ他の作家さんのものは使わずに、自分たちで作ったものを使うようにしています。

―― MV制作を多く手がけられたり、今回の様にミュージシャンの方とセッションされたり、音楽関係の方との関わりが特に強いように感じます。音楽の方と一緒にものをつくるようになった経緯を教えてください。

木幡:憧れですね、はい。音楽は大好きでクラブやライブハウスなど行っておりました。やっぱりバンドマンやDJはかっこいいですよね。自分は絵が少し描けましたので、フライヤーを描かせてもらったりしてました。しかしながら、イベントがはじまるとお客さんになってしまう…。自分もお客さんでなく、発信する側になりたいという気持ちはすごくありました。ですから、MVを作ったりVJ出来るというのはすごく嬉しいです。

有坂:VJやミュージシャンのMVを作る以前に、、、学生の頃は自分たちで音楽を作って、振り付けをつけたり、MVを作ったりしていましたね。今思うと、若かったから体をはって発信したかったのでしょうね。でも結局私は、向いてないな!と思って今の場所に落ち着いているような気がします。

―― 作品制作について教えてください。有坂さんが脚本・コンテ、木幡さんが監修や演出、おいたさんが最終調整、という役割分担をされているとおっしゃっていました。役割分担が作品によってそれが変わることはありますか?違うポジションで作ってみたいと思うことはありますか?

有坂:学生の頃、映像に目覚め、チョコチョコと作品を作りはじめていました。その時、偶然来た小さな仕事をきっかけに、周りにいた木幡くんとおいたさんに声をかけて「3人で作ってみよう!」というのがきっかけです。映像制作を始めた頃は3人共全くの素人だったので、3人で一緒に考えて作って・・と進めていってましたが、慣れていくうち、だんだん役割分担が決まってきたように感じます。誰かが手を挙げて「はい、こんな企画やってみたいです!」と積極的にプレゼンしていけば自然にポジションは変わると思います。が、最終調整は技術的においたさんしか出来ないし、木幡くんがアイディアを出したとしても性格的に私が脚本をやってしまって必然的に木幡くんは演出監修へ・・という感じなので、意外と今の担当は強固なように感じております。

木幡:そうですね、うんうん。

おいた:そうですね、うんうん。

―― 3人で作ることの良いところや嫌なところ、ひとりでつくる時と一番違うところを、教えてください。

有坂:3人で作るところの良いところは、どんな仕事でも受け入れやすいし、いい意味でこだわりを捨てられるところです。一人でやっていると、こだわりすぎてつい表現が保守的になりがちになってしまうのですが、3人だと許容範囲が10倍くらいに広くなります。なので、自分だと絶対やらないような実験的な映像を作ったり、いろんな仕事にチャレンジ出来るのだと思います。多分、自分の名前が出ないから・・責任が「最後の手段」になるからというのもあると思いますが。

木幡:うん、一人だと思いつかないような表現ができたり、描いた事が無い絵が描けますね。自我を越えた表現が、自然にできるのかも。

おいた:嫌なところはないんじゃないですかね。3人とも、1人でやりたいことは1人でやるし。

―― どうしてアニメーション、それもほぼアナログの手法での制作をされているのでしょうか?映像をつくり始めた経緯や、続けている理由を教えてください。

有坂:制作環境・技術的にアナログでしか出来ない状況だったから・・という事が強かったと思いますが、絵をずっと描いていたので感覚的に手描きの絵やアナログの手法に引かれています。それと、質感や動きなど、その時代や作者の制作現場の空気が伝わってくる感じの映像が好き。続けている理由は、好きだからです!

木幡:子供の頃観ていたTVアニメや、特撮もみんなアナログの時代でした。それに憧れて育っているので、紙に描いたり切ったりしてアニメを作る事は、特別では無いと思います。フィルムで撮影して、アニメを作ってた人達から見たら、僕らも完全にデジタル世代だと思います。デジカメで撮影したり、絵をスキャンしたりパソコンで編集したり…。

おいた:私はめんどくさがりで、効率を優先しがちなので、一人だったらもう少しデジタルを駆使するようになると思います。でも本当はアナログのほうが好きなので、二人が頑張って作り上げてくれる手垢にまみれたアニメーションを本当に素晴らしいなぁと思います。傍で見ていて、なんでこんなに地道な努力をストイックに続けられるんだろう…といつも感心しています。

―― イベントの最後に「しばらく引きこもる」とおっしゃっていましたが、もうイベントの企画などはあまりされなくなるんですか?

有坂:VJはやらないかな。

おいた:もともとVJはほとんどやらないので。たまたま最近は重なっていたんですが、ここでちょっと一段落だね。

有坂:今は新作を作ってます。一応三月までにはできるように頑張っています。

―― 以前、ネットでいつでもどこでも見られるものではない、ここでしか見られないものを作ってみたいとおっしゃっていましたね。VJをされているのはそのひとつなのかなと思いました。

おいた:そうですね。「場」みたいなことは意識するかも。

有坂:3人とも元々、絵とか、美術の展示をよくやってたんです。だから、その「場」を作るみたいな意識はずっとあって。映像の学校とかも別に行ってないし、独学だったので、映像作品を作るというよりも映像を発表する時の空間作りにはすごく興味があります。PVはネットで発表ですが、自分の作品を出すときには、もっと、場から五感で体感できるような作品にしたいなという意識はあります。

―― お客さんと直にふれあえるイベントっていいですね。映像を見せてるだけじゃなくて。

おいた:たしかに

有坂:すぐに反応が返ってくるからね。

木幡:絵とか展示だとあんまりライブ感はないもんね。 ウッドさんがさ、しゃべってんのすごい面白いなと思った。お客さんに話しかけたり。ああいうかんじって展示じゃなかなかできないから。カチッとしたしたライブ会場でもできないし。

―― 今日みたいな近さは良いですね。

おいた:もっと話せたらいいなと思うよ。トークするとか自分たちが一方的に発信するんじゃなくて。それはもう映像とかプレイでやってるから良いっちゃいいんだけど、もっと、もっとできたら、もっと楽しいかもしれない。分からないけど。ウッドさん楽しそうだし。

―― 踊るとか?

木幡:踊るタイミングは見計らってたんだけど...いこうかなーいこうかなって でも、見計らいながら、今回は、あ、終わってくなあ~これはこれでいいなあと思って。場所もあんまなかったし。

有坂:場所はあったよ

木幡:ギリ、ギリね。やりだしたら引くかもしれないけどね。

おいた:そうだね。それ結構コミュニケーションできるよね。動きはでるからね。



3月に完成予定の新作、また、より強いライブ感をもったVJを体験できる日も楽しみにしています!
有坂さん、おいたさん、木幡さん、どうもありがとうございました。


◎DVD『卵鳥と四次元エレベーター』発売!

今回のイベント『卵鳥と四次元エレベーター』の元となった
最後の手段×WOOD MAN 音楽と映像のライブセッションがDVDになりました。
谷中にあるWOODMANさん運営のギャラリー、Q-O-Iでご購入いただけます。

最後の手段ホームページでも近日発売予定です。

是非ご購入ください!



最後の手段
http://www.saigono.info/

DJ obake
http://djobake.com/

WOODMAN
http://yanakaqoi.tumblr.com/

マーチエキュート神田万世橋
http://www.maach-ecute.jp/

N3331
http://n3331.com/

TRANS ARTS TOKYO

http://www.kanda-tat.com/

最後の手段企画『卵鳥と四次元エレベーター』
http://www.kanda-tat.com/program/maach.html

2014.10.18.Sat.
19:00 - 21:00
at N3331(秋葉原)
入場無料
出演:WOODMAN × 最後の手段/DJ Obake (Her Ghost Friend) × 最後の手段