このコラムに目を通すようなマニアックな方には今さら説明不要かもしれませんが、
アニメーションには「コマ撮り」と呼ばれる技法があります。
カメラの前に人形を並べて、写真を1コマ撮っては動かし、1コマ撮っては動かし…という気の遠くなるようなあれです。
中でも粘土を使ったものはクレイアニメ、切り紙を使えば切り絵アニメ、などと呼ばれます。

このコラムでは10年ほどプロとしてコマ撮りを続けて来た私の経験や思い出話を交えつつ、コマ撮りにまつわる技術的なうんちくを主に書いて行きたいと思います。
どうぞよろしくお付き合い下さい。

こういう仕事をしていると、人から良く「コマ撮りって大変そうですよね~!」と言われます。
実際とても大変です。
手順としてはまず撮る内容を決め、人形などの主役を作り、舞台となるセットを作り、カメラや照明やプレビュー装置を配置して、1コマ目のシャッターを切る。
ここまで頑張ってようやくスタートラインです。
そして1秒の映像を作るために最低でも10コマ、時には24や30コマの写真が必要なのです。

今回はこのプレビュー装置がテーマです。
まずはコマ撮りにおけるプレビュー装置の機能を簡単に説明しましょう。

直前に撮ったコマとリアルタイムの画像を半透明にして重ねて表示する事で、
例えば速い動きにしたい部分は重なりのズレが大きくなるように手を加える等の
正確な操作ができるようになります。(これをオニオンスキンと言います。)
また、すでに撮り終わった複数のコマがどういう動きになっているかも、
いつでもワンタッチで再生して確認できます。(この機能をプレビューと言います。)

つまりプロのコマ撮りアニメーターと言えども、
ガイド無しに勘だけで人形や素材を動かしているわけではないのです。

このプレビュー装置、かつてはランチボックスという高価な輸入機材が必要でした。
しかし現在は普通のPCに専用アプリを組み合わせたシステムが使われるようになり、デジタルカメラの進化も相まってコストと敷居が格段に下がりました。
文明の進歩って、本当に素晴らしいですね。

さて、ここで私が大学在学中の2003年に仲間と制作した「ホーム」という作品をご覧下さい。

本作はメンバー4人全員がコマ撮りの経験ゼロで右も左もわからない中、
素人ならではの勢いで作り上げた若さの結晶のような作品です。
プレビュー装置の存在なんて知りもせず、勘だけで人形やカメラを動かしていました。

その結果見ての通り動きはガタガタですし、撮り終わったカットをPCをに取り込んで動かして見て初めて失敗に気付くという事が何度もありました。

もちろんこうしたノイズが必ずしも悪いわけではありませんし、
スタイルとしてコマ撮りの際にプレビューを使わないプロの知人もいます。
写真の世界に例えればノーファインダーでも良いスナップは撮れるという事でしょう。

さて最後にひとつ思い出話を。
2003年「ユーリ・ノルシュテイン大賞」というコンペに「ホーム」で入賞した私は、
阿佐ヶ谷で行われた授賞式でかのロシアの巨匠ノルシュテイン氏に直接お話するチャンスを頂きました。
コマ撮りの道に足を踏み入れたばかりの若造にとって憧れの大作家です。
(「霧につつまれたハリネズミ」「話の話」「あおさぎと鶴」内容
素晴らしさはもちろんの事、どれもアニメート技術の高さに圧倒されます!)

当時の私はアニメーションの技術、中でも撮影機材や装置に強い興味を持ち始めていました。
ずっと聞きたかった質問として、氏にどのようなプレビュー装置をお使いか尋ねました。

答えはこうです。
「プレビューは使いません。必要が無いからです。全ての動きは頭の中にあります。」
さすが巨匠、カッコいいですね。シビれますね。

次回はプレビュー装置のここ10年の変遷について詳しく書きたいと思います。

それではまた!