2014年10月15日に発売を控えている、「シノニムとヒポクリト」。これまでボカロプロデューサーとして数々の楽曲を発表してきた”ねこぼーろ”さんが”ササノマリイ”として活動を始める、最初のEPです。

新たなアレンジと共にご本人が歌唱した、代表曲『戯言スピーカーのミュージックビデオが先行配信され話題となっていますが、今回はその『戯言スピーカー』MV監督 牧野惇(まきのあつし)さんにお話を伺いました。たくさんのギミックが施された、非常に丁寧な造りの本MV。何度繰り返し観ても新たな発見があり、切なくも力強い曲の盛り上がりとともに展開される小さな箱庭の壮大な世界観に、目を奪われます。

まずは『戯言スピーカー』MVをご覧ください!

―― 牧野さんは、普段どのようなお仕事をされていらっしゃるのでしょうか。

牧野: 僕はチェコを本社に持つEallin(イアリン)という会社でアニメーションディレクターとして働いています。イアリンは2000年にプラハで設立され、現在プラハ、スロヴァキア、日本、インド、に制作スタジオを持ち、パリやニューヨークなどに営業オフィスを持っています。もともとはパペットアニメーションを制作するスタジオでしたが、時代の流れもあり、CGから手描きピクシレーション、またアニメーションの枠に捉われず、実写など幅広く制作するスタジオになりました。
日本スタジオは主にアニメーションを制作しており、テレビ番組のオープニングやCM、MVとアニメーションで制作できるものであれば何でもやっております。色々な国にスタジオがありますので、プラハで僕に合ったプロジェクトがあれば、短期でプラハに行って仕事をするというようなこともあります。


写真: Eallin(イアリン)スタジオの様子

―― 今回のMVのテーマや、意図した演出を教えてください。「マッチ箱」という発想はどこから得たのでしょうか?また、ササノマリイさん側からは要望等ありましたか?

牧野: 今回はササノマリイさん側からの要望は特にありませんでした。
面白いことをしてください、みたいな感じです。

ササノマリイさん側は非常に理解のある方々で、本当にやりやすかったです。

メロディーは非常に優しいのに、歌詞を読むと生々しい感情や表現がそのまま書かれていました。自分の世界に篭ろうとしているような印象を持ちました。

僕はよくプラハ城に散歩に行っていたのですが、その近くにおもちゃ屋さんがあり、そこでマッチ箱に入ったクリスマスの人形が売っていました。そのおもちゃは非常に小さくかわいい印象だったのですが、「戯言スピーカー」の印象と、マッチ内に作られた小さな世界が僕の中でリンクして今回のMVになりました。
素材がマッチで決まり、色々演出などの準備を始めると、マッチは色々な表現が出来る面白い素材でした。色々な色のマッチ棒や、燃やした後の焦げたマッチ棒は歌詞の心情を表現するのに非常に雄弁な素材でした。

先ほども言いましたが、歌詞には「殺す」などの生々しい表現が出てきます。
こういった言葉を、そのままビジュアルにしてしまうと、聴き手の幅を狭めてしまうと思いました。
歌詞が生々しい分、映像ではオブラートに包み、歌詞のニュアンスをより多くの人が理解してくれるように注意を払いながら制作を進めました。

―― 様々な技法が使用されていますが、どのようにして制作されたのでしょうか?

牧野: マッチ箱、マッチ棒は全て実写撮影して、それをソフト上で編集しています。マッチ棒が立つアニメーションなどはストップモーションで撮影したものに、CGで影を落としています。サビの部分は本人を撮影し、それをトレースするというロトスコープの技法を使っています。それ以外の人間のアニメーションは、オーソドックスな手描きのアニメーションです。今回のMVで印象的に使われている幾何学模様のエフェクトも基本的に手描きです。
ですが、今回はマッチ箱が置いてある世界が基準となっていますので、あまり平面の素材ばかり組み合わせると、折角の立体感がなくなってしまうので、カメラを意図的に引いたり、CGで制作した幾何学模様のエフェクトを画面側に向けて飛ばすようにもしています。
手を入れるという演出も、その立体感を引き立たせるのに非常に有効でした。

―― マッチ箱がどれも可愛くて欲しくなってしまいます!あのマッチ箱たちは一体?

牧野: マッチ箱のデザインは僕ともう一人、永田明日香というイアリンにいるデザイナーで担当しました。永田はもともと絵本を制作していたので、かわいい絵柄を担当してくれました。僕は思いついたものをノートに下書きし、それを絵に起こしていました。

たとえば、
- 水色で、亀の体にサメの顔がついているマッチ箱のデザインは、僕の夢に出てきたもの。
- 指を鉄砲みたいにして絆創膏が描かれているものは、そのとき僕が手を紙で切ったから。
- 卓球をしているデザインは、そのときアニメでピンポンがやっていたから。

などなど本当に思いつきでデザインしていきました。
非常に楽しかったです。

牧野: マッチを歌詞に合わせてデザインしてしまうと、スケジュール的にも厳しいですし、絵柄が歌詞に何も関連のなく、それぞれがバラバラの色で、使用された色数もバラバラのほうがMVの中で使用されているマッチに偶然性が出て、よりMVに親近感が沸く気がしました。
ただひとつだけ例外があり、傘の絵柄だけは、MVの流れに合わせて制作しました。涙が落ちて、ササノマリイさん自身がマッチ箱から傘を持って出てくるというシーンには、箱のデザインも傘のほうがいいなぁと思い制作ました。

牧野: マッチは絵だけではなく、文字も大事なデザインのひとつになっています。
ですので、ここで勝手な文字を入れてしまい、歌詞をミスリードさせてしまうようなことは出来ないので、「戯言スピーカー」の英語版の歌詞を頂き、比較的デザインに合う部分の文字を抜き出して配置しました。

マッチ箱ほしかったら差し上げますよ。
あとマッチでタバコを吸いたい人も来て下さい。
山ほどあります。

―― 今回使用したソフトウェアは?

牧野: Adobe Photoshop, After Effects, 3ds Max, Dragonframe

―― 今回のチーム編制と制作期間を教えてください。

牧野: 僕がデザインや絵コンテ作り、アニメーション、編集まで行っています。それに僕の右腕として、僕のプロジェクトにはいつも参加してもらっている永田明日香。アニメーションの補佐として、とても素晴らしいアニメーションを描いてくれた新人のKevin。CGは僕はわかりませんので、やりたいことを相談したらそれ以上のものを制作してくれる川崎健司く ん。実写パート(手)の切り出しを行ってくれた、赤垣さん。あとロトスコープの部分では、どうしてもお手伝いが必要でしたので、大学の後輩である、若井麻奈美さんと中野咲さんにお願いしました。2人とも非常に優秀で助かりました。

ですので、7人チームです。
素晴らしいチームのバックアップにいつも助けられています。。。

制作期間は2ヶ月半ぐらいです。

―― 最後に、tampen.jp読者のみなさんにメッセージをお願いします。

牧野: 今回のMVでは60個以上のマッチをデザインし制作しました。
MVの流れに沿って、揺れ動く主人公の心に着目して頂いてもいいですし、映像がスクロールするごとに現れる色々なマッチ箱のデザインを楽しんで頂いても結構です。
マッチ箱を使用したことにより、映像内の素材の大体の大きさが伝わると思います。このMVの中から自分の感覚に合うものを見つけて楽しんで頂けると非常に嬉しいです。

これからも映像を作り続けますので、時々思い出してチェックしてください!
よろしくお願いいたします!!

今回は特別に楽曲制作者、ササノマリイさんからもコメントをいただきました。

ササノマリイ: 今回初めてMVを制作して頂いて、楽曲の世界観をより広げられるような素晴らしい作品を完成させることが出来て、とても嬉しいです。今後とも、なにとぞよろしくお願いします。

たくさんの小さなマッチ箱の中いっぱいに籠められた宝物のような『戯言スピーカー』MV。季節も変わった秋の夜長、切なくビターな歌詞に調和されるほんのり甘いササノマリイさんの歌声とともに、ゆっくり観賞してみてはいかがでしょうか。発売される「シノニムとヒポクリト」EP、そして、牧野さんの今後の活動もとても楽しみです。牧野惇さん、ササノマリイさん、どうもありがとうございました!


牧野 惇
http://eallin.jp/?filter=a-makino

イアリンジャパン
http://eallin.jp/


ササノマリイ1st EP「シノニムとヒポクリト」
ハイレゾ音楽配信と音楽記事サイトOTOTOYにて、発売と同時配信開始が決定!
http://ototoy.jp/_/default/p/46168


「シノニムとヒポクリト」
1800円(税抜)
2014年10月15日リリース

1.戯言スピーカー
2.自傷無色
3.オノマトペメガネ
4.ふたりで。
5.ハルニキミト
6.弾けないギターを片手に
7.シノニムとヒポクリト
8.戯言スピーカー English Ver.
全8曲

amazon
http://www.amazon.co.jp/シノニムとヒポクリト-ササノマリイ/dp/B00MELG6FQ/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1407203559&sr=8-1&keywords=ササノマリイ


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