7月27日(土)、28日(日)に開催される「短編アニメーションの〈いま〉を知る——特集:大内りえ子=孤独でも自由なもうひとつのキャラバン」(関連記事:【告知】tampen.jp主催上映会「短編アニメーションの〈いま〉を知る——特集:大内りえ子=孤独でも自由なもうひとつのキャラバン」開催の会場で配布予定のステートメントを先行公開します。「短編アニメーションの〈いま〉を知る」シリーズは、短編アニメーションを「みる」ことはもちろん、短編アニメーションについて「考える」「語る」ことを重視しています。テレビシリーズや長編作品と比較すると一般的に「わかりづらい」傾向をもつ短編アニメーションを能動的に味わうリテラシーを育てることが、豊かな短編アニメーション文化をこれからも維持するためには必要と考えているからです。シリーズ第三弾となる「特集:大内りえ子=孤独でも自由なもうひとつのキャラバン」も、そうした目的意識のもとおこなわれます。具体的な施策としては、各回で違った批評家をゲストにアフタートークをおこないます。また後日、ゲストによる大内りえ子監督にかんする短評も公開予定です。ただ「みる」だけではなく「考える」「語る」ことを通じて、個人アニメーションの豊かなポテンシャルをしめすことをめざします。以下に掲載するステートメントが、その足がかりとなればさいわいです。

text. 田中大裕


大内りえ子 / Rieko OUCHI
1990年北海道札幌出身。北海道教育大学美術教育専修修了。アニメーションを中心に、個人的な体験を解体・再構築した作品を制作している。イメージフォーラム・フェスティバル、新千歳空港国際アニメーション映画祭、バンクーバー国際映画祭、ロッテルダム国際映画祭ほか、国内外での受賞 / 上映多数。
HP:
https://www.riekouchi.com/


大内りえ子は、マンガ / アニメの〈キャラクター〉を一貫して批判的にあつかうアニメーション作家だ。もっとも、日本において〈キャラクター〉を「剽窃 Appropriation」した自主制作アニメーションじたいはあたらしくない。『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-1996)などの監督として知られる庵野秀明が学生時代にかかわったことで有名な第20回日本SF大会(通称「DAICON 3」)オープニング・アニメーション(1981)は、その典型といえよう。しかしながら、大内のアニメーションと「DAICON 3」オープニング・アニメーションは異なる性格をもつ。「DAICON 3」オープニング・アニメーションは参照項となっている作品がはっきりとわかるある種の二次創作的な傾向をもつのにたいして、大内のアニメーションがあつかう〈キャラクター〉はpixivにあふれるイラストのような匿名性をもつ。大内のテイストをさらに詳しく知るうえで、批評家の東浩紀が2000年代前半に打ちだした「データベース消費」という概念が端緒になるかもしれない。

「データベース消費」についてごくかんたんに説明すると、事物を分割された構成要素の集合としてとらえる社会傾向を前景化した概念だ。その典型として、東は「キャラ萌え」をしめす。東の主張を簡略化すると、「オタク」は〈キャラクター〉を断片的な属性(「ネコ耳」「アホ毛」など)が帯びるメッセージ(「萌え」)の組みあわせとして受容しているという。東の主張はかならずしも「オタク」の消費活動すべてにあてはまるわけではないだろう。しかしながら東の企図は、「キャラ萌え」を通じて先述の社会傾向をしめすことにあったと推測される。東が「データベース消費」という概念で前景化した社会傾向は、概念が提出された2000年代よりもむしろ、現在においてより実感をともなうだろう。SNSはひとびとをクラスタリングの作用にさらし、健康志向は食品を栄養素の集合に還元する。社会になじめないコミュニケーションの困難には医学的なエビデンスがあたえられる。

大内は個人的な経験や感覚をアニメーションにしていると語る。たしかに大内が選択するストーリーテリングは内省的で、そこから明瞭なメッセージを読みとることはほんらいであれば困難だ。そうであるにもかかわらず、観客はそこからおぼろげだがたしかなメッセージを読みこんでしまう。それは大内のアニメーションが、それ自体でメッセージを成す〈キャラクター〉をあつかっているからだ。さらに誤解を恐れずにいえば、つねに集団化の作用にさらされる現代人のありかたが、匿名的な〈キャラクター〉とかさなるからだ。

大内のアニメーションは内省的な語りゆえに孤独な印象をあたえる。しかしながらそれは逆説的に、〈キャラクター〉という共同幻想を生きるわたしたちが、ほんとうの意味で孤独を引きうける困難を問い返す。大内のアニメーションは、逃れがたい集団化の作用を撹乱するのだ。


イベント詳細

【会場】
ディジティ・ミニミ
〒150-0046
東京都渋谷区松涛2-11-11 松涛伊藤ビル 2F

【料金】
予約1,000円 / 当日1,500円


2019年7月27日(土)開場14:40 / 開始15:00 / 終了16:30(予定) ゲスト:松房子(映像作家 / 批評)
https://tampen005.peatix.com/

2019年7月27日(土)開場17:40 / 開始18:00 / 終了19:30(予定) ゲスト:大内りえ子
https://tampen006.peatix.com/

2019年7月28日(日)開場14:40 / 開始15:00 / 終了16:30(予定) ゲスト:難波優輝(分析美学 / 批評)※Skypeでの出演となります。
https://tampen007.peatix.com/

2019年7月28日(日)開場17:40 / 開始18:00 / 終了19:30(予定) ゲスト:塚田優(視覚文化評論)
https://tampen008.peatix.com/


【注意事項】
・上映作品は各回おなじです。
・お支払は現金のみとなります。
・座席はチケットの申し込み順ではなく、当日のご来場いただいた順でのご案内となります。
・イベントは延長となることがございます。
・会場には駐車場がございません。ご来場には公共交通機関をご利用ください。
・アフタートークはインターネットで動画配信する可能性がございます。ご来場のお客様は映像に映り込む可能性がございます。
・上映中のご飲食はご遠慮ください。
・イベント中の無断撮影・録音はご遠慮ください。
・お支払い後の返金対応は承っておりません。あらかじめご了承ください。


フライヤーはこちら(PDF)。


主催:tampen.jp / 協力:ディジティ・ミニミ