7月2日から14日にかけて東京・art space kimura ASK?では、アニメーション作家・水江未来監督の個展「DREAMLAND-水江未来のアニメーションのミライ-」が開催されていた(関連記事: 水江未来監督の個展開催 最新作のスクリーニングのほか、絵画の展示や原画の販売も)。同個展では、水江監督の4年ぶりとなるオリジナルアニメーション作品『DREAMLAND』がついに、一般公開された。そこでtampen.jpでは、水江監督にたいして、『DREAMLAND』についてたっぷりとお話をうかがうロングインタヴューをおこなった。Part 1では、『DREAMLAND』制作の裏側について詳しく語っていただいた。(取材・構成=田中大裕)
水江未来 Mirai MIZUE
1981年福岡県出身。アニメーション作家、イラストレーター、デザイナー。サイケデリックな抽象アニメーションで国際的に高く評価される。アヌシー国際アニメーション映画祭ほか、国内外映画祭での受賞・上映歴多数。現在は自身初となる長編アニメーション作品を準備中。
webサイト https://miraifilm.com/
ーーまずは、『DREAMLAND』企画成立の経緯を教えてください。
水江未来(以下、水江) 『WONDER』(2014年)が、アヌシー国際アニメーション映画祭(以下、アヌシー)でCANAL+賞を受賞しました。CANAL+はフランスのTV局なのですが、CANAL+賞は副賞として、次回作の制作支援という名目で放映料の前払いみたいなことをしてくれるんです。そのおかげで(『DREAMLAND』は)比較的、潤沢な予算で制作することができました。じっさい『DREAMLAND』はすでに、(CANAL+で)三回ほど放映されているんですよ。アヌシーで受賞する半年前くらいから、『WONDER』の次の作品について考えはじめていました。海外のレジデンスに応募したりもしたのですが、企画がまだ煮詰まっていなくて引っかからなかった。じつは当初は、『MODERN No.2』(2011年)の続編をつくる計画でした。最初は『MODERN No.3D』というのも考えていて(笑)。立体視の作品をつくってみたかったのですが、技術協力してくれるパートナーとのマッチングがうまくいかず、けっきょく頓挫してしまいました。それで、No.3は飛ばして『MODERN No.4』を先につくろうかとか。けっこう迷走していましたね(笑)。
ーーでは、じっさいの制作期間としては、どのくらいの期間を要したのですか?
水江 2015年に『Poker』(トクマルシューゴ同名楽曲のMV)でアヌシーに行った際に、プロデューサーに企画書を提出したのですが、そこからなかなか着手できなくて2015年中はつくっていなかった。ちょっとしたテストフィルムをつくったりはしていたのですが。本格的に制作に着手したのは、2015年の末くらいからでした。じっさいの作画期間としてはおそらく、一年間くらいだと思います。
ーーもっと時間がかかっているものと思っていたので驚きです。
水江 正直にいえば、もっと時間をかけたかったという気持ちもあります。とはいえ、いくら予 算が潤沢だといっても、あまりお待たせするのは申し訳ないので(笑)。ただ、(『DREAMLAND』の)制作手法的には、小さなユニットを新しく作画して、それを編集で足し ていけば永遠に増殖させることができる。「永遠に完成しない」というコンセプトの作品でもあ るので。じっさい、ずっとマイナーチェンジをくり返しています。去年上映したとき(渋谷アップ リンクで開催された上映イベント「TRIPS&BIBLIOMANIA[DAREAMS]」)から、音楽もつくり 直しているので。逆にいえば、現状をいちおうの完成形と看做すこともできる。
ーーちょうど技術的なお話もでたのでおうかがいしたいのですが、『DREAMLAND』はすべてアナログで作画したそうですね。
水江 そうです。建築用の方眼紙を作画用紙の下に敷いてガイドにしながら、一枚一枚シャーペンで描いていきます。それをスキャンしてPCに取り込んで、Photoshopで色を塗っています。さらに、僕はAfter Effectsを使って編集作業をしているのですが、編集時に紙の質感を消す作業をあえておこなっています。
ーー私は2017年に、イメージフォーラムで開催されたワークショップに参加したのですが、講師でいらしていたアニメーション作家の平岡政展監督が、「水江さんはフルコマで作画していてすごい!」というようなことをおっしゃっていました。
水江 そうなんですよ。1コマ1コマ起こっている「現象」をちまちま追っていくような感覚なんです。だからテクニックではないんです。地味な作業をひたすらくり返していく泥臭いやりかた。だから僕は、(平岡監督のように)おしゃれにはならない(笑)。
ーーそんなことはないと思いますが(笑)。しかし気が遠くなる作業ですね。
水江 作画をしているときは、ほんとにしんどいですよ。以前ドキュメンタリー番組かなにかで、宮崎駿監督が作画をしながら「めんどくさい」と発言しているのをみて、「やっぱりみんな、めんどくさいんだ」と思えてちょっと気持ちが楽になりましたけど(笑)。それと、(抽象アニメーションは)次はどんな形にしようかとか、ヴァリエーションを考えなくてならないのがつらいところですね。
ーーちなみに、作画はおひとりで?
水江 そうです。たぶん、(抽象アニメーシヨンは)そうしないと時間が余計にかかってしまうので。というのも以前、僕が原画を描いてスタッフに中割りをしてもらう分業を試したこともあるのですが、思ったほどうまくいかなった。キャラクターの場合だと、なんとなく正解というか、一連の動作のなかで押さえるべきポイントがあるじゃないですか。(抽象アニメーションには)それがないので。シンプルな形なら問題ないんですけど、複雑な形になると動画枚数が増えるにしたがって線がどんどん重なっていって、前に進んでいるのか後ろに下がっているのかわからなくなってくる。それでヒューマンエラーが多発してしまうんですね。色を塗る作業とかならスタッフに任せられる部分もあるんですけれどね。
ーーなるほど。そうして苦労して作画したユニットを、デスクトップ上でコピー&ペーストしたりしながら組み合わせていくわけですよね。まるでミニチュアを組み立てるように。
水江 そうです。
ーー作画作業に着手する前から完成形はイメージできているのですか?
水江 じっさいに組み合わせてみて、「ああ、こうなるのか」と発見するかんじです。静止画なら事前にイメージを固めることもできるんですけれど、動いているとやはり難しいですね。どんどん変形していくので。ただそれによって、自分でも思いもよらない形態が現れたりもするんです。そういう偶然性を期待している部分はあります。だから、コラージュのようなつくりかたをしているんです。
ーー画面の密度に圧倒されてしまうのですが、レンダリングにもとても時間がかかったそうですね。
水江 ラストシーンの素材が8Kなんですよ。20秒か30秒あるんですけれど、(ラストシーンの)レンダリングだけで2日間くらいかかりました(笑)。8K上映が可能な環境があればラストシーンだけ上映するのもおもしろいかもしれない。
ーーそれは圧巻でしょうね。先ほど音楽のお話が少しでましたが、『DREAMLAND』の音楽は、どのようなコンセプトで制作されたのでしょうか。水江監督の作品ではつねに、音楽が重要な構成要素だと思うのですが。
水江 音楽家には「オリビア・ニュートン=ジョンの『ザナドゥ』をダークにしたような終わりかたでお願いします」と伝えました(笑)。スペーシーかつダークなイメージですね。あとは、何秒から何秒は(画面は)こういう展開だとか、構成の意図であったりは伝えましたけれど、基本的には自由に制作してもらいました。もちろん、最終的な微調整はおこないましたが。
ーー去年上映したバージョンから音楽をつくり直しているとのことですが、なぜですか?
水江 去年上映したバージョンでは、音楽がぴたっと止まって映画が終わるという、収まりのいい展開でした。僕の映画ではずっと、音楽がぴたっと止まって、画的にも派手な展開をクライマックスにもってきて、ちゃんとオチがついた気持ちがいい終わりかたを意識してきました。でも、『DREAMLAND』では反対に、観客を不安にさせるような余韻が欲しかった。だから、(音楽を)ノイズのような残響がフェードアウトしていく展開に変えました。
Part 2へつづく