メインヴィジュアル:『螺旋のクオリア』©︎2018 Risa Yamashita


今回からはじまる新企画「New Generations」は、若手短編アニメーション作家にインタヴューをおこなう不定期連載となる。いわゆる「商業アニメ」と異なり、インディペンデント・アニメーションにかかわるクリエイターの言説は現状、ほとんどアーカイヴに残らない。若手作家であればなおさらである。「New Generations」の目的は、若き「新世代」の作家たちにインタヴューをおこない、そのことばをアーカイヴ化すると同時に、ユニークな若手作家をより広く紹介することにある。さて、第1回に登場いただくのは山下理紗監督だ。山下監督は、匿名的な3DCGを用いて、謎めいたSF作品を制作している。SNSなど、インターネットを介したコミュニケーションがあたりまえになった、ポスト・インターネット時代のリアリティーを反映した作風が現代的だ。最新作『螺旋のクオリア』(2018年)では、短編映画とVRゲームという異なるアウトプットによって、ひとつの世界観を構築している点も興味深い。今回は、そんな山下監督にメールインタヴューをおこなった。『螺旋のクオリア』を中心に自作について語ってもらった。 (取材/構成=田中大裕)



作家プロフィール
山下理紗/Risa YAMASHITA
1989年東京出身。2013年多摩美術大学卒業。2018年東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻修了。
Twitter:https://twitter.com/ySHIOOT
webサイト:http://rvision.xxxxxxxx.jp



ーーまずは、アニメーション制作をはじめたきっかけを教えてください。また、3DCGをメインツールに制作されいますが、なぜ3DCGを選択したのかも教えてください。

山下理紗(以下、山下) きっかけはなく、偶然であると同時に必然でした。アニメーションをよくみる家庭に偶然生まれた以上、脳内に浮かんだイメージをかたちにするための手段にアニメーションを選ぶのは、なかば運命のようなものでした。3DCGというのはPCによる計算が介入します。それによって、私の脳内でおこなわれる計算よりも迅速に、壮大かつダイナミックな表現をおこなえると考えています。コンピュータと人間の共同作業によって現れる美学を期待しつつ、計算を外した奇妙なランダム感を加味することで視覚的なトリップを誘発し……ーーじつのところ、3DCGであることに深い意味はありません。『螺旋のクオリア』にかんしてはむしろ、最初の構想では3DCGと並行して手描きのキャラクターを登場させるつもりでした。しかし、VRコンテンツ化をめざしていたのであきらめました。あらためて3DCGを用いる理由にお答えすると、限られた制作期間内で自分の思い描くヴィジュアルを実現するためと、アウトプットの形態を選ばない自由度の高さです。

ーー現在使用しているソフト等、制作環境について教えてください。

山下 Windows、Maya、AfterEffects、Unity、Oculus。

ーー影響を受けたクリエイター(アニメーション作家以外でも)がいれば教えてください。

山下 特定の作家から強烈に影響されたというのはないです。あえて言うならネット文化から影響を受けています。

ーー最新作の『螺旋のクオリア』ではVR版も制作されていますね。フィルム版とVR版の関係について教えてください。

山下 未完成VRとしてのフィルム版であると同時に、フィルム版を補強するためのVR版という関係です。VR版にかんしては、フィルム版に登場した主人公らしき存在がみていた世界を、追体験できるコンテンツになっています。(プレイヤーと同化している)主人公の外観が人間らしい姿なのかあるいは、ロボットような姿なのかを体験した方それぞれに想像してもらう意図がありました。

ーー山下監督は一貫して、匿名的なキャラクターを用いて、実存的な不安について語っている印象をいだきます。作品のテーマについて可能な範囲で教えてください。

山下 
もはや、肉体を個人と結びつける時代は終わりに近づきつつあるように思います。たとえばSNSでは、話し相手がBOTやAIであったり、数人でひとつのアカウントを運用していたとしても、アカウントという「外見」とプロフィールさえ設定されていれば、まるでひとつの人格であるかのように対応してしまいますよね。そして、受け手の感性がフィルターのような働きをすることで、人格は曲解され、都合のいいように咀嚼されたうえで、ひとりの「キャラクター」として理解されます。そこで人間や非-人間あるいは、いちように同じ外観をしたロボットでさえも、けっきょくは観測している側の認識に左右されて、人格や意識の有無が決定しているのではないか? というような不安を作品をとおして表現したかったように思います。もっとも、ここまで話しておいてなんですがけっきょくのところ、受けとり方は観客それぞれの解釈に委ねたいと考えています。作者としては、作品解釈の正解を用意するのではなく、観客それぞれにフィットする流動的な作品であってほしいと願っています。

ーー山下監督の作品ではしばし、世界がマトリョーシカのような入れ子構造になっていますね。そのような想像力は、何に由来するのでしょうか。

山下 
CGで物体をくり返し拡大/縮小していると、正常なスケール感が崩壊していくような感覚があります。そうした欠落感が無意識のうちに反映された結果、入れ子構造として現れているのだと思います。

ーー『螺旋のクオリア』では、キャラクターが情報を媒介するために、ケーブルやICチップではなく心臓を用います。さらに、心臓を胸部ではなく頭部に移植する。とても神秘的かつユニークな設定だとかんじました。なぜこのような設定を導入したのか教えてください。

山下 
心臓は生物の生命維持に欠かせない核なので、有機物の心身の象徴、有機物と無機物をわける決定的な差異として扱っています。そして、それをロボットが所有しているという事態が、演算によって厳密に構築された世界の内側に、あいまいで不確定な要素が混入していることをしめします。また、あるべき場所ではなくあえて、顔に心臓を埋め込むようにしたのは、量産された匿名的な「ナニカ」が人格らしきものーー心であったり、心に由来する表情であったりーーを手に入れた、という表現です。

ーー最後に、現在製作中の新作について可能な範囲で教えてください。

山下 新作については、今回も若干SF色のある作品になる予定です。ツールも継続して3DCGを用いるつもりです。また、ゲームとまではいかないもののある程度、インタラクティヴ性のあるものをめざしています。が、現在はまだ実験段階です。成功への応援よろしくお願いいたします。