2017年6月11日から16日にフランスのアヌシーで開催されたアヌシー国際アニメーションフェスティバル。今回参加したその様子を、アニメーション作家キム・ハケンさんにレポートしていただきました!
世界4大アニメーションフェスティバルの一つであるアヌシー国際アニメーションフェスティバルに行って来ました。ありがたいことに昨年完成した私の作品『Jungle Taxi』が、短編部門にノミネートされたのです。学生時代からの憧れの場所だったので、入選を知らせるメールが来た時には本当に嬉しかったです。
今回は2度目の参加で、1度目は修了作品『MAZE KING』が学生作品部門にノミネートされた2013年でした。その時は学校関係の方々や私の家族と一緒でしたが、今回は一人で現地に向かうことになり、前回とはまた違った気分での渡航となりました。私は絶望的なレベルの方向音痴なので地図が読める人の後ろに付いて行くことでなんとか生きて来られていたのですが、今回はそういう訳には行かないということで出発前までかなり緊張しました。
画像:キム・ハケン監督『Jungle Taxi』より
アヌシーに行くルートは幾つかあるんですが、私は渡航費が比較的に安かったのでイスタンブール経由でスイスのジュネーブに行き、そこからバスに乗り換えてフランスの国境を越えアヌシー駅に到着するルートを選びました。
フェスティバル初日の月曜日に現地入りする計算でチケットを取りました。移動だけで20時間以上かかる長〜い旅になります。(もちろん十数時間で着くことが可能な便もちゃんとあります。)一人でこんなにも長時間移動するのは初めて。なんとか無事にアヌシーまでたどり着いた時には、現地時間15時を過ぎていました。
写真:アヌシー駅
アヌシー駅に着いてみると、「あ、ここ来たことある!」という懐かしい気持ちになりました。4年前はここで宿に戻るのに3回くらい大失敗をして、終バスの最終駅まで乗ってしまい運転手さんに私を見捨てないでとお願いしてバスを戻してもらったこともありました。
iPhoneを現地で使うためにSIMフリーカードを買おうとして失敗した話は省略して、まずは自分のIDやフェスティバルカタログなどを受け取るためにフェスティバルセンターに向かいました。
写真:フェスティバルセンター。基本英語で会話します。
そのカタログなどをカバンに入れて渡してくれるのですが、今年のカバンは妙にスポーティーなデザインでした。毎年違うデザインで今年は外れ年だなと作家仲間と話したりもしました。ちなみに私のは4日目で留め具が故障、破れてしまったのでホテルに置いて帰ってきました。みなさんはフェスティバルでもらったカバンとかどうしていますか?
一通りフェスティバル期間中に必要なものをいただいてから、フェスティバルが用意してくれたホテルにチェックインに向かいました。途中で日本と韓国の知り合いと偶然あったのがとても嬉しかったです。
ホテルはセンターから歩いて40分ほど離れている場所にあり、周りの位置関係も把握したかったので歩いてホテルに向かいました。フェスティバル初日なので、もう至るところで上映やイベントが始まっていました。
初日は開幕セレモニーとパーティだけに参加するつもりだったので、まずチェックインを済ませてから開幕セレモニーの会場に戻りました。開幕セレモニーはいつも長編作品から開幕作品を選んでそれを観るだけらしいです。らしいというのは手違いで開幕セレモニーのチケットを受け取らなかったので、会場に入ることができなかったからです。
招待状には直接受け取らなければならないタイプと、IDのバーコードを読み取ればオッケーなタイプのものがあって、開幕セレモニーと開幕パーティは前者の方だったのです。ちなみに開幕作品はArthur DE PINSとAlexis DUCORD監督『Zombillenium』(ベルギー/フランス)でした。残念ながらセレモニー(上映)は諦めて、パーティのチケットを用意していただき、パーティに行きました。もう疲れはピークでしたが、現地入りしてからまだフェスティバルっぽいことができていなかったので、無理して参加しました。
開幕パーティは劇場とは少し離れた場所で行われていて、お酒とおつまみを片手に色んな人と交流する感じです。
写真:パーティの様子
アヌシーのフェスティバルは、アニメーションフェスティバルとしては規模的に世界一とも言われています。パーティには全世界からアニメーション関係者がわんさか集まっていて、とても賑やかでした。「あ、アヌシーってこんな場所だったんだよな」と熱気を感じることができました。
フェスティバル中はディズニーをはじめ様々な制作会社、また日本や韓国、スイスなど様々な国がパーティを開催し、関係者達の交流の場を作ってくれます。今回参加したパーティはどこもとても賑やかで混んでいました。
この夜はアルコールも程よく入ってもうヘトヘトだったので、ホテルに帰って死んだように眠りました。
写真:6日間お世話になったホテル”Encore”
アヌシーの特徴として、世界の様々なアニメーション関係の企業、団体などがブースを出して見本市のように展示や商談などを行う「MIFA」を挙げることができます。メインシアターから少し離れた会場で、AdobeやTVPaint、Wacomなどの名の知れたツール開発会社や、カートゥーン ネットワークなどの製作会社、また、国からもパビリオン形式でブースを出していて、教育機関も参加をしています。
今年はアヌシーの特集国として中国が選ばれていたので中国のパビリオンが大きく目立っている印象でした。
写真:MIFAの様子
アニメーションフェスティバルでの楽しみといえば、なんと言っても、朝から晩まで町のどこかで上映されているアニメーション作品の何を観るか、フェスティバルカタログを見ながら計画を立てることですよね。アヌシーでは、朝9時から夜11時過ぎまで4つの施設でプログラムを上映していました。展覧会やワークショップ、記者会見などのイベントも入れると会場は15箇所にも及ぶので、毎日全部のイベントを見るのは物理的に不可能。なので、ホームページや専用アプリからプログラムをチェックして、見たいものの優先順位をつけなければいけません。確実に会場に入るためには事前に予約が必要で、人気のあるプログラムは予約が取れない時もありますが、その場合はプログラムが始まる前に並んで待てば順番に入ることができます。
写真:並んで入場を待つ人。並ぶのは結構暑いです。
ちなみに私は、どのフェスティバルでもあまり一日中作品を観るタイプではないです。絶対観るべきものとして短編部門のコンペティションの予約を先に取って、あとは気になる長編やパノラマのプログラムに予約を入れてから、できるだけ学生部門を観るようにしていました。空いた時間は展示を見に行ったり町をぶらぶらしたり、パーティに参加したりして過ごしました。
ここからは、フェスティバルで見た作品やイベントで印象的だったことを書きたいと思います。
まず、湯浅政明監督の長編作品、『夜明け告げるルーの歌』の会場の盛り上がり方が素晴らしかったです。(長編部門グランプリ、おめでとうございます!)
とにかく観客のノリがよくて、小さいボケでも声を出して笑っていました。日本の劇場ではあまり味わえない会場の一体感でした。監督の舞台挨拶とインタビューでも、会場は熱狂的な反応でした。あの反応を思い出すと、この作品が長編のグランプリを取ったのも納得です。私もアヌシーでこの作品をみることを楽しみにしていましたが、不思議な魅力があふれる作品だと思いました。特に作品のアニメートスタイルに関しては独特な世界観があってとても楽しめましたし、ストーリーでも心が熱くなる作品でした。
写真:舞台挨拶中の湯浅監督
短編部門のコンペティションの作品の中でいくつか気になる作品をご紹介します。(ネタバレを避けた、私が受けた印象のみ。)
『The Burden (Min Börda)』
監督:Niki LINDROTH VON BAHR
制作国:スウェーデン
グランプリ作品。世界観と独特な間がたまらないパペットアニメーション作品でした。擬人化した動物たちによる都市型ミュージカル。
『Grandpa Walrus(Pépé le morse)』
監督:Lucrèce ANDREAE
制作国:フランス
観客賞の作品。キャラクターの造形や演技の仕方、題材や設定が大変好きな作品でした。不思議な話ですが、心が作品と共鳴しました。
『Nothing Happens』
監督:Uri KRANOT, Michelle KRANOT
制作国:デンマーク、フランス
Festivals Connexion Award – Région Auvergne-Rhône-Alpes / In partnership with Lumières Numériques & Pilon Cinéma、André-Martin Award for a French Short Filmの二つの賞を受賞した作品。今回のコンペティションの中では変わったスタイルの作品で目立つ作品でした。コンテンポラリーアートの影響を感じられる作品で、どの媒体でみるかによって印象が随分変わりそうな気がする作品でした。
上でも少し触れましたが、今年の特集国は中国で、アヌシー旧市街にある教会で中国の作品の展示をしていたのですが、併設して、『ファンタスティック・プラネット』で有名なルネ・ラルー監督の展示もやっていました。中国の展示もよかったのですが、個人的にはルネ・ラルーさんの原画が見られたのがとても嬉しかったです。繊細に書かれた絵を綺麗に切り抜いた『ファンタスティック・プラネット』の原画をみて、作家の非常なこだわりが感じられました。憧れます。
大会の最後は閉幕セレモニーとして授賞式が行われます。今年の名誉賞はスイスのアニメーションの巨匠、ジョルジュ・シュヴィツゲベルさんに贈られました。生きる伝説のジョルジュ・シュヴィツゲベルさんですが、実はアヌシーでの受賞はこれまでなかったようで、今回の受賞がアヌシーでの最初の受賞となったそうです。受賞の際はスタンディングオベーションでとても感動的でした。さらに彼の作品『魔王』をピアニストの息子さんの生演奏で上映したパフォーマンスは臨場感あふれるとてもレアな上映になりました。
今回の大会では湯浅政明監督の『夜明け告げるルーの歌』がグランプリ、片渕須直監督の『この世界の片隅に』が準グランプリにあたる審査員賞を受賞、また冠木佐和子監督の『夏のゲロは冬の肴』が学生部門グランプリ、また日本人のRu Kuwahataさんとアメリカ人のMax PorterさんによるユニットTiny Inventions監督の作品、『NEGATIVE SPACE』がFIPRESCI AwardとAndré-Martin Special Distinction for a French Short Filmを受賞するなど、日本の作品がたくさん受賞式の舞台に上った豊作の大会となりました。好きな作品がいっぱい受賞したので嬉しかったです。
久々の国際アニメーションフェスティバルの参加で様々な作品をみて、自分の創作活動における進むべき道について考える大切な経験ができました。入選したすべての映画祭に行くのは無理ですが、こうして行ってみると、自分が作った作品がどのような環境で観客に観られどのような反応をされるのか、直接感じることができます。また、作品を作った人に直接会って話してみると、その作品をより立体的に理解することができます。理想としては一年に少なくとも一回くらいは海外の映画祭に参加したいですね。そのためにはまたその切符となる新しい作品を作らないといけません。
写真:閉幕セレモニーの様子。来年の特集国はブラジルです。
『Jungle Taxi』7分44秒 2016年
タクシードライバーはジャングルで嫌な客を乗せてしまった。タクシードライバーは客に言われるがまま、海辺で死に損なった男を迎えに行く。男のところにたどり着いたタクシードライバーは、懐にしまった銃に手を伸ばす。
監督:キム・ハケン
プロデュース:面高さやか
音楽:櫻井美稀
サウンドデザイン:蓮尾美沙希
声:
男役:松崎 颯
犬役:菅沼 久義
女役:牛田 裕子
双子役:江川 央生
制作:STUDIO 8 DOGS
監督より
『Jungle Taxi』は私の身の回りに起きた暗い出来事(事故のような)をベースに作られました。私はその出来事を忘れられず理解しようと努力しましたが、いまだにちゃんと理解できていません。私にできることは創作を通じて悪い冗談としてそのできごとを再構成することでした。みてくれた人から“よくわからなかった”という感想をよくもらいますが、それはある意味正解だと思います。しかし、この作品が理解できる・できないということには関係なく、人の感性に触れるものであってほしいと願っています。
キム・ハケン
1982年ソウル生まれ。2010年、東京工芸大学芸術学部アニメーション学科卒業。2013年、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻修了。2016年、映像制作スタジオ「STUDIO 8 DOGS」を設立。『Jungle Taxi』がザグレブ国際アニメーションフェスティバル、アヌシーアニメーションフェスティバルをはじめ、世界の数々の映画祭にて入選。
アヌシー国際アニメーションフェスティバル
AnnecyInternational Animated FilmFestivaland Market (MIFA)
https://www.annecy.org/