© 和田淳・ニューディアー/東映アニメーション


ベルリン国際映画祭短編部門銀熊賞をはじめとした数々の受賞歴を誇り、国内外で高く評価されるアニメーション作家・和田淳監督。和田監督が、『ONE PIECE』「プリキュア」シリーズ等で名高い東映アニメーションによるプロデュースのもと、自身初となるオリジナルTVアニメシリーズの制作に挑戦した『いきものさん』は、MBS/TBS系全国28局ネットにて現在放送中。「tampen.jp」では、折り返し地点を過ぎ、放送も後半に入った『いきものさん』について、高田伸治プロデューサー、土居伸彰プロデューサー、和田監督の3名にメールインタビューを実施。その内容を全3回にわたり掲載する。

第2回は、『いきものさん』のアニメーション制作を手がけるニューディアーより、土居プロデューサーのインタビューをお届けする。


『いきものさん』が発表された際は、これまで短編映画を中心に手がけてきた和田監督がTVシリーズに挑戦するということで、大変おどろきました。『いきものさん』の企画背景についてお聞かせください。

土居:『いきものさん』の原型となった企画は、和田監督がかなり以前からあたためていたものです。その企画は、毎回異なる動物が出てくる子ども向け短編シリーズという内容でした。1960年代に、マンガ家・アニメーション作家の横山隆一が、自身が設立したおとぎプロにて制作した『五万匹』というさまざまな動物たちを主人公にした短編アニメーションシリーズがあるのですが、そういうものがつくりたいと和田監督は話していました。

和田監督が文化庁による制作支援プログラム「メディア芸術クリエイター育成支援事業」に採択されたことで、『いきものさん』のパイロット版を制作をすることができました。それが、のちにビデオゲームというかたちでリリースすることになる『マイエクササイズ』です。ただ、パイロット版からシリーズに展開するための方策を講じることができず、企画はいったんストップしていました。

その後、先述のとおり『マイエクササイズ』をビデオゲーム化をしたり、短編映画『半島の鳥』を制作したりと、『いきものさん』からは離れていました。ほかの作品がひと段落したタイミングで、毎年2月にアメリカのマイアミで開催される北米最大の子供向けエンターテイメント産業見本市「Kidscreen Summit」が、アジア圏からの企画を募集していると知り、『いきものさん』の企画を応募したところ、無事採択されました。「Kidscreen Summit」に採択されたことをきっかけに、海外向けの企画として練りなおしたのですが、プレゼン先からの反応をふまえると、子ども向け企画として海外で成立させるのはかなりむずかしい印象で、どうしようかなと悩んでいました。

そんな折、東映アニメーションに転職したばかりの高田プロデューサーから、ニューディアーの問い合わせ窓口に「なにか一緒に企画をやりませんか」と連絡がありました。高田プロデューサーは過去、ニューディアーの自主企画イベントにお客さんとして来てくれていたとのことで、和田監督のこともよく知っていました。そこで『いきものさん』を提案したところ、「これでいきましょう」ということになりました。『PUI PUI モルカー』の成功でショートアニメが脚光を浴びていた状況もあり、最初は朝の枠を探していましたが、現代アートのコレクターとしても知られるMBSの亀井博司プロデューサーが企画を気に入ってくれて、現在の枠におさまることになりました。

土居プロデューサーは、これまで和田監督とタッグを組んでビデオゲーム『マイエクササイズ』や短編映画『半島の鳥』を手がけてこられました。土居プロデューサーが考える和田監督作品の魅力とはなんですか? また、放送も折り返しをすぎましたが、土居プロデューサーからみて、TVシリーズ制作という挑戦によって浮き彫りとなった和田監督の新たな一面についてもお聞かせください。

土居:2010年に、「CALF」という独立系アニメーションを発信するためのレーベルを、和田監督らと結成しました。結成の裏側には「和田さんを売れっ子にしよう」という隠された目的もありました。じつは当時から、和田監督の作品に商業的なポテンシャルを感じていて、短編アニメーション業界にとっての新たなスターに和田監督を押し上げようという目論見がありました。もっとも、その当時は十分に達成できなかったわけですが……。いずれにせよ、そういう経緯があるので、和田監督を自分がプロデュースするのであれば、和田監督の世界観を広くマーケットに接続することを念頭においています。『マイエクササイズ』をインディゲームというかたちで世に送り出したのも、そういう理由です。

『いきものさん』の場合、TVシリーズとして展開する=「商品」にするということなので、和田監督のスタイルをどれだけ売れ筋に寄せられるかを考えました。たとえばいつもに比べてキャラの頭身を低くしたりなど、創意工夫をしています。いっぽうで、東映アニメーション側からのフィードバックを受け、「音楽はなるべくミニマムにして、音まわりは従来の和田監督作品に近づけよう」という話にもなりました。したがって、「売れる」ことと「和田監督らしさをキープする」ことのバランスをどう考えるのか、それこそが今回の大きなテーマでした。

むずかしかったのは尺です。TVシリーズなので尺の長さが厳密に決まっており、それに合わせておもしろいアイデアを考えだすのは、普段はたっぷりと間を取ることを好む和田監督にとっては骨が折れる作業だったと思います。それと、キャラクターの感情がわかりやすく伝わるようにすることを、僕のほうから——とりわけ前半のエピソードの制作中に——かなりお願いした記憶があります。短編映画を制作するモードの和田監督には「わかられてたまるか」というある種の反骨精神が顔のぞかせる瞬間がありますが——そして、そうした反骨精神は短編アニメーション全般の美学でもあると思いますが——TVアニメの場合は視聴者とキャラクターのあいだにしっかりとしたつながりができたほうがいいと考えたからです。

物語の面では、ベタと前衛のバランスの見極めを、いまだに試行錯誤しつづけています。第2話の伸びるネコはかなりベタな——というか「あるある」なネタだったので、個人的にはちょっと気恥ずかしさを感じたものですが、Instagramでめちゃくちゃバズったので、むしろ、もっとこういうネタを入れるようにすればよかったと少し後悔しています。

ほかにも、「インパクトの強さ(キモさ)」と「かわいさ」のバランスだとか、音楽の入れ方だとか、テレビアニメという「見ようと思えば誰でも見られる」開かれたフォーマットだからこそ考えるべきことというのはたくさんあります。考えることは山積みですが、今後もっと挑戦的かつポップな作品をつくれる手応えみたいなものも得られて、「今回のシリーズをなんとしても成功させ、『いきものさん』の次もつくりたい」という前向きな姿勢で、後半の制作に臨めています。

『いきものさん』は、日本を代表するアニメーションスタジオである東映アニメーションがプロデュースに参加していることも話題です。土居プロデューサーは、これまで数々の短編アニメーション映画をプロデュースしてこられましたが、TVシリーズのプロデュースは初ですね。東映アニメーションとは、どのようなやりとりをされましたか?

土居:基本的には「やりたいようにやってほしいです!」という感じで、ほぼなにもかも制作側に任せてくれました。宣伝戦略にかんしてもこちらがつくりたいものをベースに練ってくださり、正直なところ、びっくりしています。そのぶん、信頼に応えねばとプレッシャーも感じていますが……。

最後になりますが、今後の放送を楽しみにしている読者へ、メッセージをお願いします。

土居:短編アニメーションの魅力は何度観てもおもしろい・飽きないということです。監督初のシリーズものという挑戦においても、そうした短編アニメーションならではの魅力はキープできた自信があります。なのでTV放映だけでなく、配信等で、何度も何度も観ていただきたいです。

基本的には一話完結ですが、最後の二話はゆるやかにつながり、最終回は非常に「最終回らしい」ものになっています。シリーズを完走するカタルシスをしっかり感じてもらえるはずです!(もちろん、和田監督作品なので、それなりに変わったものではありますが……)


土居伸彰(どい・のぶあき)

1981年東京生まれ。株式会社ニューディアー代表。ひろしまアニメーションシーズン(ひろしま国際平和文化祭 メディア芸術部門)プロデューサー。ロシアのアニメーション作家ユーリー・ノルシュテインを中心とした独立系アニメーション作家の研究をおこなうかたわら、「Animations」や「CALF」といった団体・レーベルを独立系アニメーション作家たちと共同運営、「GEORAMA」をはじめとする各種上映イベントの企画運営、『ユリイカ』等への執筆など、多岐にわたる活動を通じて世界のアニメーション作品を広く紹介する。2015年に株式会社ニューディアーを立ち上げ、『父を探して』など、海外アニメーションの日本配給を本格的にスタート。国際アニメーション映画祭での日本アニメーション特集キュレーターや審査員の経験も多数。プロデューサーとして、日本の独立系アニメーション作家たちの国際共同製作にもたずさわる。著書に『個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論』『21世紀のアニメーションがわかる本』(いずれもフィルムアート社)、『私たちにはわかってる。アニメーションが世界で最も重要だって』(青土社)、『新海誠 国民的アニメ作家の誕生』(集英社新書、2022年10月発売)。プロデュース作品に『マイエクササイズ』(和田淳監督、インディーゲーム/短編アニメーション)、『不安な体』(水尻自子監督、短編アニメーション)、『I'm Late』(冠木佐和子監督、短編アニメーション)、『半島の鳥』(和田淳監督、短編アニメーション)など。


【作品情報】

『いきものさん』

〈キャスト〉

いがぐり:誠(ヨネダ2000)

犬:浦井のりひろ(男性ブランコ)

〈スタッフ〉

原作:ゲーム『マイエクササイズ』

監督・脚本:和田淳

色彩設計:尼子実沙

音響監督:滝野ますみ

音楽:高橋宏治

主題歌:猫戦

企画:松原一哲

企画・プロデュース:土居伸彰

プロデューサー:高田伸治、亀井博司

アニメーション制作:ニューディアー

製作:東映アニメーション

【放送情報】

毎週金曜深夜1:50頃 MBS/TBS系全国28局ネット“スーパーアニメイズム”枠おしりにて放送中

【公式サイト】https://www.toei-anim.co.jp/tv/ikimono -san/

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