小野ハナさんの新作『such a good place to die』が完成し、その上映を中心とした個展が始まりました。今回は新作と展示についてお話をお伺いしています。
『澱みの騒ぎ』が第69回毎日映画コンクールで大藤信郎賞を受賞した際にもインタビューをさせていただいたアニメーション作家、小野ハナさんですが、その際にお話しされていた「制作中の風景抽象アニメーション」というのが、今回完成した『such a good place to die』です。
約3分の短編ですが、美しく静かで激しい圧倒的な世界観をずっと観ていたくなる作品です。まずはトレイラーをご覧ください!
―― 小野さん、軽く自己紹介をお願いします!
小野: 小野ハナと申します。2014年の春に東京芸大の大学院のアニメーション専攻を修了しました。現在は自主制作が中心ですが、ONIONSKINという映像制作のグループにも所属しています。
―― 今回は抽象アニメーションなんですね。制作のきっかけは?
小野: この作品は、以前に作った『澱みの騒ぎ』という作品を構想していた時に、物語とは関係なく頭の中に風景画どんどん湧いてくることに気付いて、それを描き留め始めたのがきっかけで生まれました。『澱みの騒ぎ』は娘が父親を殺すというシーンから始まる少し過激な内容だったので、人間の死や生命、自然の循環について考えざるを得なくなり、その流れに注目した時に、この頭に浮かんだ風景もひとつ作品にしなければと思い制作を始めました。
画像:『such a good place to die』作品スチル
―― 制作はいかがでしたか?
小野: 最初に浮かんだ風景が、恐らく娘とそれに殺される父親を描いていて浮かんだ心象風景だったので、そのスタートは濁すわけにはいかないと思っていました。もしこの心象風景が『澱みの騒ぎ』の反動だったとしたら、その心的反応もまたアニメーションにしたら面白いんじゃないかと思ったので。
言葉で考えることではなく、想像の風景を歩くことで思考しているのかも知れないと気付いて、絵コンテやタイムシートをほとんど用意することなく、ひたすら作画をして進めて行きました。地図を持たずに旅をするような感覚です。
写真:『such a good place to die』制作風景
小野: 自分の想像が至った場所に行くよりも、意識のもっと外に出たいと思ったので、風景をメタモルフォーゼで動かしました。そうすると本当に自分の頭の中にない風景に辿り着いて、描きながら驚いていました。アニメーションのこういうちょっと凶暴な感じも楽しんでいます。
途中で完全に道に迷って、自分で描いた風景を見ながら「ここはどこだ…何が完成だ…」と本気で不安になったりもしました。未熟者です。
写真:『such a good place to die』着彩風景
―― どうしても気になってしまうのでお伺いします。小野さんは、このような場所で死にたいと…?
小野: そうですね。この作品は最終的には、地球とか生き物が宿る星の全体的なイメージに辿り着いたと思っているので、地球や自然、宇宙の一部として、命や記憶が一区切りを迎えることは本望だなとは思います。でも考えてみれば、地球や宇宙で死ぬなんていうのはむしろ当たり前のことなので、どこで死んでも本望っていうことになると思います。死は絶対来るので。結局、具体的な場所は関係ないんだなという考えに至りました。
ひとつ完全に自分の主観が反映されていると言えるのは、周りに生き物がいなかった所です。自然や地球を描きましたが、具体的に連想出来る植物や動物は描きたくなかった。人間ももちろんです。なんでかなと考えてみたら、私は人に看取られて死ぬのが怖いと思っているみたいで、誰かを残して死ぬのとか、死んだあとの私と関わる人をつくりたくないと考えてるようです。ひっそり消えたい。この部分は完全に主観です。
かといって今すぐ死にたがっているわけではなく、死というものをいつか迎えるなら、という話で、作品の中身は結局、生命観や生きたい気持ちが強く表れたと思っています。
写真:『such a good place to die』原画の一部
―― 雨の表現や線のタッチ、空の色、グラデーションなど端々に浮世絵のような日本らしさを感じましたがそのような意図はあったのでしょうか?
小野: 浮世絵らしさは意図していませんでした。ただ浮かんで来た心象風景は、恐らく自分が見てきた日本の地元の風景から生まれているものだと思うので、稜線や量感が日本らしいとは言えると思います。シンプルな線で描くというのも、その方がメタモルフォーゼさせる時により広い表現の可能性を持っていると思われる自然な選択だったというだけで、浮世絵を狙ったわけではありません。
あと私は荒れた映像が好きなので、自分で作る時も色の彩度が自然と落ちたり、全体にたくさんノイズを重ねたり、デジタルの綺麗さからは離したい気持ちがあります。それがちょっと古い紙の雰囲気に寄ったのかもしれませんね。
画像:『such a good place to die』作品スチル
―― アニメーションと並行して際立っているステキな音楽はどなたが?どのようにイメージを伝えたのでしょう?
小野: 音楽は、對馬樹(つしまたつき)さんという東京藝大の音楽環境創造科出身の人で、修了制作(『澱みの騒ぎ』)でチームを組むことが決まってからのご縁でした。イメージを伝えようとした時私は、作品タイトルと自然の循環というようなキーワードしか伝えられなかった気がしますが、そこですぐさま「ピタゴラス音階」という単語を出し、やってみたい事があると意欲的になって下さいました。12音階ではなく、本当に綺麗な和音を出す音の組み合わせと流れがあるようなんです。そこまでくるともう私は専門的に手が出ないので、意図とも合っていると感じていたし、あとはほとんどお任せした形でした。
写真:「楽譜と對馬さんの手」
―― 今回の展示は、全国を巡回するんですね。
小野: 今年いっぱいは、「惑星オノハナは死ぬのに良い場所」という名前で何箇所かまわろうと思っています。目下は6月5日から28日まで、名古屋の大須にあるシアターカフェさんでの展示が開催中です。14日には上映しながらトークをするイベントも企画しています。15日からの4日間で通常上映の時間も頂きました。
写真:「シアターカフェ」店内、イラスト展示風景
小野: 7月の18日から26日には、岩手県盛岡市の櫻山神社向かいのNOTEという喫茶店で、展示と上映をさせて頂く事にしています。今ちょうど計画を立てている所です。
ちょっと飛んで11月には、京都の方でどこかお借りしようと思っているのと、12月の4日から9日には、新宿眼下画廊さんに場所をお借りしようと思っています。
―― 小野さんも各会場に在廊されるのでしょうか?
小野: 6月のシアターカフェさんは、トーク上映イベントのある14日に在廊します。7月の盛岡は、土日は居られるんじゃないかなと思っていますが、イベントを何か考えようと思っているので、それに合わせてって感じですね。11月の京都はまだ完全に未定ですが、出来るだけ居れたらいいなとは思います。12月の新宿眼科画廊さんはわりと家から行き易いこともあって、出来るだけ在廊しようかなと思っています。
―― 気になる展示内容は?
小野: 作画の原画をたくさん持っていっています。カットごとで冊子にまとめて、パラパラ漫画のように見られるようにしていたり、本編とは関係なく普段描いた抽象風景のイラストも数点並べています。あとは空中に何か浮かべたいと思って、抽象的な土地を羊毛でいくつかつくりました。
「パラパラ漫画のように見られる作画原画」
「土地」の立体物
―― グッズの販売も充実しているそうですね。
小野: 今回張り切っていっぱい作ってしまいまして、手ぬぐいと、手ぬぐいエコバッグがまずあります。これらは私の地元岩手にある手捺染の工場に発注していて、染め具合や裁縫についてもじっくり相談して作った物で、本当に良い染め物なのでおすすめです。
「てぬぐい」
「エコバッグ」
小野: あとは、新作『such a good place to die』を作りながら、毎週木曜日にネットで制作風景を公開していたんですが、その記事をまとめて、完成後の感想や楽譜なんかもまとめた日誌というか、冊子を作りました。作ってみたら84ページにもなってしまって、結構厚いです(笑)。
「制作記録冊子」
小野: あとはよく作っているんですが、絵やシーンを利用した折り紙と、缶バッチが5種です。
「折り紙」
「缶バッチ」
―― 今回の展示について、一言お願いします。
小野: アニメーションもイラストも、物語も抽象も、立体もグッズも、みんな今頭のなかにある関心ごとです。いずれそれぞれが影響し合ってまた次の作品や活動に繋がっていくと思うので、楽しんで頂けたら嬉しいし、この先も楽しみにして頂けたら良いなと思います。ぜひ観にいらして下さい。
―― ところで小野さんの今後の活動予定は?
小野: 今後は、作画のお手伝いとしてある作家さんに協力させて頂く予定がいくつかあるのと、自主制作の漫画にも取りかかる予定で居て、あとは今年中にまた一本新しく作ります。今度は、音からアプローチを掛ける物語作品になる予定です。がんばります。
小野ハナ 公式サイト「銀杏に雨」
http://ginkgo.raindrop.jp/
小野ハナ個展 「惑星オノハナは死ぬのに良い場所」
期間: 2015年06月05日(金) - 2015年06月28日(日)
時間: 13:00 - 21:00
※要1ドリンク(500円)注文
※火曜定休
会場: シアターカフェ
(名古屋市中区大須二丁目32-24 マエノビル2F)
http://www.theatercafe.jp/