原田章生さんによる初めてのアニメーションMV作品『ゾウの王様と天使の筆がWeb公開されました。

まず目に飛び込んでくるのは洗練されたデザインの可愛らしいイラスト素材ですが、それもそのはず、原田さんは絵画・音楽活動をしているアーティストなんです。今回は本作のビジュアルから楽曲まで全てを手がけた原田さんに本MV制作についてお話を伺いました。

まずは『ゾウの王様と天使の筆』MVをご覧ください!

―― 原田さんは普段どのような活動をされていらっしゃるのですか?

原田: 画家とシンガソングライターをしています。二足のわらじを履いている自覚はなく、表現したいことがビジュアルか音、どちらが“伝わる”かでアウトプットを選択しています。音源を発表しつつ、ショップやレストランなどで絵画展を開催し、自分の絵に囲まれた空間でアコースティックライブをしたりします。またサウンドクリエーターとして、アーティストの楽曲アレンジ、ゲーム音楽などを手がけています。

―― 今回はなぜアニメーションを表現に使用されたのでしょうか。

原田: 最初は全くアニメーションを作るつもりはありませんでした。一年前に名古屋の長者町というところで仕事で巨大壁画を描いたんです。しかも何を描いてもいいという恐ろしくも寛大な発注で。もうひとり井上えっこさんって画家の方と、ふたりでコンセプトも下絵すらないままアドリブで描いてきました。えっこさんが穴を描いたから、じゃ僕はゾウを飛び出させようかな、みたいなノリで。その過程の中でだんだんと着地点が見つかっていき、いつの間にかストーリーも漠然とできたんです。で、整理するために言葉にしてたらメロディをつけたくなって。曲にしてアレンジしてレコーディングしたら今度はビジュアルが見えてきたんです。そこで生まれて初めてアニメーションを作りたい衝動にかられたのですが、時間軸のない静止画の絵画界で生きてきた僕にはそんなスキルもない。ならば静止画の連続であるストップモーションなら何とかなるかもって、勢いだけでアニメーション表現を選択しました。


―― この作品について教えてください。ストーリーでは「描くこと」が軸のひとつになっているようですが、ご自身の経験を元にされたのでしょうか?

原田: そうです、経験なんです。でもテーマは「描くこと」というより「想像、そして創造すること」です。壁画を描いた時アドリブで描いていったので、壁の表面に絵の具を乗せる感覚よりは何も描かれていない壁面を眺めて中に何が入っているのか想像して、中に既にあるモノをほじくり出す感覚でした。想像して創造の繰り返し。そして僕は壁の中のおとぎ話の創造主であり、創造主が想像したそこの住人達と筆先で出会う。アニメーションでも空想癖のある子供が作ったおとぎ話の中でストーリーは展開し、スケッチブックに穴を描いてこちら(現実)に招きます。そう、まさに僕が壁画を描いた行為それ自体がこのアニメーションのストーリーにそのまま反映できたんです。アニメーションの中でスケッチブックを「壁」と比喩したのもそんな経緯からです。

原田: もう一つのテーマは「笑顔」。アニマルたちは「作り笑顔」から始まり、最後は「本当の笑顔」を手に入れます。そしてゾウの王様は「本当の笑顔」をみると自分も「本当の笑顔」になる。そしてその連鎖の良循環。もっと沢山の笑顔が見たい衝動。「笑顔」の意味、拡散の描写もひとつの見どころです。実際壁画の前でも、アニメーションのように現実の沢山のお子さんが壁の前でアニマル達と出会って指をさしてはしゃいでくれています。沢山の笑顔が生まれます。ですのでこのアニメーションは僕にとって空想の出来事でも何でもなく現実を切り取ったような感じなんです。

―― 今回の制作で使用したソフトウェアやツール・技術を教えてください。

原田: 基本アクリル絵の具やコピックで手書きしたものを取り込んでAdobe Photoshopで解体して関節を動かして一コマ一コマ作ってます。それをAdobe Premiere Pro上で楽曲に合わせて並べていきました。なにせ初めて尽くしなのでヘルプやら検索やら調べながら大変でした。ずっとJPEGファイルを書き出して並べていたのですが、途中からAdobe Premiere Proは「透明」も反映するPSDファイルがそのままレイヤーとして並べられることを知って。それから作業効率も質も上がりました(笑)。当然ながら最初のほうと最後のほうではクオリティーに差がでたのでその温度差を最後に埋めなおしたりもしました。撮影は机上のカットのみアトリエです。あとは白い漆喰の壁がある居間をアトリエっぽくして撮影しています。パペットはAdobe Photoshopの中で写真と合成するので現場撮影自体はそんなに時間がかかっていません。


―― 本作は全てお一人で制作されたそうですが、作品としては全ての要素の意思が統一されシンプルで強烈なひとつのカタマリになっているように思います。

原田: よく聞かれるのが、「君はいったい何が一番メインでやりたい人?」ってこと。いつも自分でもうまく説明できませんでした。結果的にですが、今回自分の描くビジュアルに初めて時間を投入したら自分自身を全て説明できたんです。絵、ストーリー、作詞、作曲、演奏、歌唱、楽曲アレンジ、録音、ミックス。いつの間にか僕の持ってる全部がここにはいりました。アニメーション制作という新しいスキルを手に入れながら。名刺代わりの作品ができたと思っています。おっしゃる通りひとつのカタマリで、楽曲を作る段階で頭の中だけで見えていたビジュアルを形にしています。例えば、リンゴが落ちるときのサウンド、画面が白黒になる時の溜息のようなコーラス、涙の落ちる音などの他、曲中のブレイク、メロディーの色変換、文字のタイミング、トランジションなど全て一人の意思でもってサウンドと言葉とビジュアルをリンクさせました。そしてこれはもしかしたら自分にしかできないことなのかもって思ったら、今後の制作活動における可能性がちょっとキラキラしました(笑)。もうほんとに楽しくて楽しくて。孤独な作業ですが、寝たくない!って思った制作は久しぶりでした。ただ、全て自己完結ではなく、やはり一緒に壁画を描いたえっこさん、その壁の前ではしゃいでくれた子供たちもストーリーが生まれるきっかけに携わっていますし、サウンド面では僕の8歳になる長男が「天使1」役、4歳になる次男が「天使2」役を頑張ってくれました。

―― 本作の今後の展開や、活動予定を教えてください。

原田: アニメーションとしては処女作なのでとにかくまずは色んな人に見てもらって、色んな意見を聞きたいです。そしてアニメーションに興味をもってしまったので次作に繫げていけたらなと思っています。4月の個展『原田章生絵画展~ツバメの空カフェ~』会場でのオープニングワンマンライブでプロジェクターで本作を上映してアニメーションに合わせて生歌で歌おうかなと思っています。

原田: 楽曲に関しては4月5日に僕の3rdアルバム『壁曲』が発売されるのですが、そこに入っています。
他の楽曲も聞いてみたい方は、こちらが全曲視聴できる動画です。

―― tampen.jp読者のみなさんへメッセージをお願いします。

原田: この作品には僕の持っているもの全てが入っています。まだまだ技術的に甘い部分もありますが、“伝える”ことを第一に考えて作りました。一回だけ見ても発見できない遊び心もはいっています。僕自身楽しんで作ったので、きっと楽しんで見ていただけると思います。お子さんから大人まで沢山の方に見ていただきたいです。

―― 今回原田さんは地道で孤独なアニメーション制作作業を本当に楽しんでされたようで、それが本作の魅力としてみなさんにも伝わっているのではないでしょうか。自らの絵に自らの手でアニマを吹き込み動かしていく。その喜びや完成した時の特別な達成感を得られるのは、本当にアニメーション作家ならではなんですよね。原田さんの場合、自分の歌に乗せていくのですから楽しみも一入なのでしょう。原田章生さん、どうもありがとうございました。次回作も楽しみにしています!


原田章生 (はらだあきお)
http://www.haradaakio.com/

原田章生絵画展~ツバメの空カフェ~
http://haradalive.blog56.fc2.com/

【会期】 2015年4月8日(水)~5月30日(土)
【営業時間】
<cafe> 13:00 - 17:00
<dinner&bar> 18:30 - 21:00
<cafe&bar> 21:00 - 23:00(金・土)
【定休日】日曜日・第1・3月曜日
【場所】 TSUBAME SHOKUDO
愛知県豊橋市前田南町2-8-19(バロー向かい)tel.0532-55-4114

4月5日(日)オープニングイベント“原田章生ワンマンライブ”
5月31日(日)クロージングイベント“原田章生ワンマンライブ”
※ライブは共に要予約


原田章生3rdアルバム『壁曲』

1.カベミライ
2.ゾウの王様と天使の筆
3.トマト
4.君のそばで
5.コート
6.トカゲ
7.目蓋のムシカゴ
8.泣き虫ヒーロー
9.BLUE FROG

(購入はこちらから: http://kinema.thebase.in/